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だがそう巧くはいかせない・・・!
バイスの立てた戦略はおそらく正しい。
だがそれもここできっちり自身の銃撃を成功させ、
デックを倒したらの話。
狙われる立場となったデックはそうはさせじと、
三角巾に隠れてはいるが眉を強く寄せて表情を引き締めた。
マントの女とは違って確実に狙いをつけ、
その場を微動だにしなければきっと彼の弾丸は自らの身体を撃ち抜くだろう。
狙いをつけるまでの無駄のない諸動作がデックにそう思わせた。
バイスはすでに発射の体制に入っている。
親指一本で撃鉄で引き起こし、弾倉が回転し弾薬が発射位置に移動する。
言うまでもなく飛んでくる銃弾のスピードはとても人間の目に捉えられるものではなく、
発射の火薬の爆発音を聞いてから回避したのでは遅い。
しかしながら回避行動が早すぎれば、照準を修正される恐れがある。
回避のタイミング。
それを如何に見極めるかだ。
そんな中、デックが目を細めて凝視するはバイスが握る拳銃の引き金。
銃は引き金を引くことで引き起こした撃鉄を鳴らし、火薬を発火させて銃弾を発射する。
それは一瞬のことではあるが、
そこに回避のチャンスがあると短身の男は思っていた。
引き金に指をかけ、引く動作に入ったら回避する――。
一度引く動作に入ってしまえば照準も修正しにくいはず、と。
そして引く動作に入ってから弾丸が発射されるまでのわずかな時間、
そこに自分のワンアクションが許されるのだ。
「(見てな・・・鮮やかにかわして見せるぜ・・・)」
引き金のみを凝視する眼。
今までどれほどの死線を潜り抜けてきたかは分からないが、
デックはこの方法で生き残る自信があるようだった。
――そして。
その時はきた。
引き金を引く指の動き。
その瞬間をデックはまさに捉えたのである。
反射的に身体が動いた。
倒れ込むかのように右に上半身を大きく反らす。
火薬が火を噴くよりも早く身体が先に動くことができた。
避わせた・・・!
そう確信するのも無理はなかった。
デックが動いた一瞬あと、一発の乾いた火薬音が鳴り響く。
「ぐが・・・っ!?」
避けたはずのデックの左肩を銃弾が撃ち貫いた。
服が千切れて飛び、丸い傷口が模られそこから赤い血が噴き出す。
すぐに襲ってくる鈍い激痛。
倒れ込むように躱したデックは文字通りそのまま砂地に倒れ込んだ。