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八年前、まだ少女だった彼女は右も左も分からずにあてもなく旅をしていた。
町に立ち寄ればそんな小さかったアリスを何かと親切にしてくれた人も少なからずいたという。
だがーー。
「私が立ち寄り、滞在した町はわずか数日の内に『災厄』に呑まれました。
あの頃のあたしには・・・なにも出来なかった。
なにもしてあげられなかった。
あたしだけが生き残ってーー」
彼女が旅に疲れ町に立ち寄り、ふとしたことで人々と仲良くなることはよくあった。
しかし一週間も滞在すれば、例外なくその町は様々な災厄に呑み込まれたのである。
あるときは盗賊の一団によって、あるときは『紅砂嵐』によってーー。
災いは町それぞれだったが、どの町も壊滅的な被害を受けたのだ。
そして彼女はその中を生き残ることによって、自らの潜在能力を覚醒させていったのである。
単なる偶然ーー。
そう言うにはあまりに多すぎた。
すなわちアリスの中を流れる『ジェーンの血』のせいで滅びた町がーー。
「言うなら・・・あたしは疫病神なんです。
あたしに長く関われば、必ず災厄に見舞われる。
この町もこのままあたしが居座れば、きっと何らかの災厄に見舞われます」
「ち、違う!
君は疫病神なんかではーー」
「お父さんが血砂病になったのだってーー!」
吐き付けるようにアリスが言うと、
それまで否定していたアシュフォードの声が遂に枯れた。
『ジェーンの血』の呪い。
果たしてそんなものが本当にあるのかどうかは分からない。
だがマーサがアリスに警告していたように、アリスが一つの場所に長く居座ることで災厄が訪れたのは事実である。
「でも大丈夫。
こんな呪われた血は、あたしで終わりにしますからーー」
「ど、どういう意味だ・・・?」
「でもその前にやらなければならないことがあります」
アシュフォードの質問にアリスは答えず、言葉を紡いだ。
「アシュフォードさんも、色んな場所をまわっていたんですよね?
『スタンピード』という異名は聞いたことないですか?」
「『スタンピード』・・・?」
不意にアリスに聞かれ、アシュフォードは記憶の糸を辿ると、
どうやらそれと思しき、ある噂を思い出したという。
一つの町が一夜にして破壊され、女、子供に至るまで全ての人間が惨殺されたという話。
その話に出てきた破壊者こそ『ランページ・スタンピード』。
アリスはアシュフォードの返答に、険しい表情で頷いた。