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アリスに言われた通りに準備を始めたマリア。
それを見たアリスが頷き、もう一度周りの町人たちにアシュフォードの身体を運ぶのを手伝うよう呼び掛けた。
皆、その指示に従い、アリスを含めた数人でアシュフォードの身体は部屋のベッドへと運ばれた。
そこで手慣れた、しかも迅速な応急処置がアリスの手によって行われる。
見ている町人たちはアリスの一つ一つの行動がどのような処置なのかが分からないのだろう。
却って邪魔になるのでは、と何も手を出せない。
だが一人の人間に対するアリスの必死の行い、それに心打たれない者は一人も居なかった。
何も出来ないがせめて祈ろう、と皆がアリスを見守っていた。
必死の形相、汗を滲ませながらのアリスの治療は、それから長時間、休まずに行われるのだった。
ーーそしておよそ二時間後。
アリスの必死の治療はある程度の実りを結んだ。
倒れた時は今にも息絶えそうだったアシュフォードは、今では安定した起伏を繰り返しながら静かな寝息を立てている。
薬屋にてアリスのメモ通りに煎じてもらった薬も効いてるのだろう。
後は意識がいつ回復するか、である。
いずれ意識は戻るからーーというアリスの言葉を受けて、町人たちは取りあえず今日のところは家路に着いた。
当然、アシュフォードの容体が一体どんな状態なのか尋ねられたが、その時はアリスは何も答えなかった。
アシュフォードが眠るベッドの脇で、椅子を二つ並べてアリスとマリアが見守る。
早く目覚めて、とそう強く念じながら。
もう眼を覚まさないのではないか、そんな不安に堪えきれないのか、自然とすり寄ってきたマリアの震える頭を、アリスは優しく撫でている。
目を閉じてしきりに天を仰ぐようにしながら、アリスはアシュフォードが目を覚ますのを待ち続けた。
ーーそれからまた数時間。
もうすぐ夜が明ける、というところでその時は来た。
体重をあずけてきているマリアの頭を、手で引き寄せながら小槌をつくようにしていたアリスがふと目を開くと、そこには瞼をうっすらと開けたアシュフォードの姿があった。
「ーーアリス・・・。
俺は一体・・・?」
「良かった・・・目を覚ましたんですね」
声をかけられ、アリスはくしゃくしゃの笑顔を浮かべた。
そしてすぐにマリアを優しく起こしてあげると、
マリアは涙を流しながら父のもとへ飛び込む。
マリアが嗚咽を上げる中、アリスもまた目元を拭いながら親娘の姿をどこか懐かしそうに眺めていた。