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「あっはっはっは!
いいよ、ジェニファー!
その調子、その調子!」
マリアは途中から注意する事も忘れ、激しく暴れるジェニファーの上で笑顔を見せるアリスに茫然と見入っていた。
するとどうだろう。
暴れ疲れたか、あるいはアリスを背に乗せることを許したのか、
ジェニファーは徐々に静かになっていった。
「いいよ・・・ジェニファー。
いい子だね、お前は」
やがてアリスを乗せたままゆっくりと慣らすように敷地内を歩き始めたジェニファー。
そんなジェニファーの首筋を撫でながらアリスは穏やかな笑顔を見せる。
どうやらジェニファーは完全にアリスに気を許したようだ。
少し後には方向転換などのアリスの軽い指示に従うまでになっていた。
「す、すごーいっ、アリスさん!
私でも乗れるようになるまで1、2週間かかったのに・・・」
「あたしん家にはもっと凄い暴れん坊がいたからね。
この子はおとなしいほうよ」
感心して、興奮さえするようにマリアが声を上げると、
アリスは馬上でゆったりとした風の流れを楽しみながらそんなことさえ言ってのけた。
それからまた少しジェニファーに乗り続けて満足したアリスは、ふわりとした身体つかいで飛び下りる。
ジェニファーの見つめてくるような瞳に、アリスは笑顔でその毛並みを優しく撫でた。
「さすがだな、アリス」
「ーーお父さん!」
「アシュフォードさん・・・」
不意に背後から響いた声にアリスとマリアが振り向いた。
するといつの間にそこにいたのかアシュフォードが軽く咳をしながら立っていた。
当然ながらアリスはそちらの名前で呼ぶ。
「お前のおばあちゃんも馬乗りに関しては、他の者とは比べ物にならなかった。
馬に愛される血筋ってやつなのかもな?」
「え?
お父さん、アリスさんのおばあちゃんの事を知ってるの?」
「ん?
あ、ああ・・・まぁ、昔ちょっとな」
「ふーん・・・」
どこか誤魔化したような父に、マリアは納得したのかしていないのかよく分からない表情。
アリスは自分も知らない祖母の昔を何気なく語ったアシュフォードの言葉に、悲しげに笑った。
「それよりマリア。
食料の買い出しを頼むぜ」
「え、でも昨日の片付けがーー」
マリアが渋る。
確かにお店の酒場は昨日の大宴会で、散らかり汚れたままになっていた。