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ーー翌日の朝。
アシュフォードの部屋で安らいでいたアリスはマリアによって起こされた。
一緒に身体を洗わないかという誘いにアリスは応じ、店の裏にある敷地に裏口を使って出る。
ーー眩しい太陽。
アリスは特に昨日の酒が残っているわけでもないが、照りつける光に眩しそうに瞼を庇った。
柵で囲った裏の敷地は広く、奥には水車小屋が一棟ある。
身体を拭く布を手渡されたアリスはマリアと共に水車小屋の側まで足寄り、そこに置いてある木の桶の側で二人は服を脱いだ。
桶に入った地下水から汲み上げた冷たい水を布に染み込ませると、それで身体を丁寧に拭っていく。
朝とはいえ既に外は蒸し暑い空気が流れており、そんな中、冷たい水を拭くんだ布が気持ちよく感じるらしいアリス。
だがふとマリアの方を見ると、自分の裸をまじまじと見つめてくる顔がそこにあった。
「な、なによ」
「アリスさんって、肌が白いですよね~。
日焼けとかしないんですか?」
「ま、まぁ、気は遣ってるけど・・・って、そんなに見ないでよ」
「うわぁ・・・白いだけじゃなくてすべすべ・・・。
いいなぁ」
「わきゃ?!
あんまり触んないでよ、くすぐったいじゃない」
「髪の毛も透き通ってるみたい。
アリスさんみたいな綺麗な髪、憧れちゃうなぁ」
「ちょ、ちょっと、マリア?
あんたまさか変な気ないでしょうね?」
執拗に身体を触ってくるマリアに、身の危険を感じたアリスは少し距離を取ろうとするが、マリアも追ってくる。
アリスとしては迷惑な話であるが、アリスにじゃれつくマリアの表情は嬉しそうだった。
ーー身体も拭き終わり、再び一張羅の服に身を包んだアリス。
するとマリアは両手にいくらかの干し草を持って小屋の中に運び込もうとしている。
どうやら馬を一頭飼っているらしく、その餌である干し草を今からあげるそうなのだ。
興味を惹かれたアリスも後に続き、水車兼馬小屋の中へと入っていった。
「この匂い・・・懐かしいなぁ」
馬小屋の中へと入ったアリスの第一の感想がそれだった。
乾燥した室内に充満する独特な匂い。
それは決していい匂いとは言えないが、アリスは鼻を鳴らしながらその匂いをまるで楽しんでいるようだ。
「アリスさんも馬を飼ってたんですか?」
「故郷にいた頃にね。
あたしんとこは馬だけじゃなくて牛や豚もいたけどね。
それも沢山の」
「わぁ・・・そんなにいっぱいですか?」
アリスの話しに今度はマリアが興味を持った。