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パリストはこの日いつになく機嫌を損ねていた。
先程、アスピーク・タウンに赴いた彼は、
開拓者が星頂人に納める上納金の額を引き上げる話をした。
開拓者からすれば一方的な話で当然反感を買うが、そうしてまで何故引き上げたいのか?
開拓者から引き上げた上納金は、パリストの更に上に位置する星頂人に納められる。
勿論、その時に幾ばくかの金が上納金の一部からパリストに払われるが、それでは足りない、いや『満足出来ない』。
ならば上納金の価格を上げて、その上げた分を丸ごと自らの懐に入れる。
パリストが管理する町は他にもあり、今回のように無理に上納金を上げては不正に利益を得ていた。
そういった『裏金』によってこの館が建てられ、彼の生活に過剰な潤いをもたらしている。
しかし今回の値上げは失敗に終わった。
勝負に負けたからである。
流石にボスであるパリストが自ら受けた勝負の結果を反故にするわけにもいかず、それ故にパリストは苛立ち、
いつも吸う煙草が、いつも飲む茶が、その全てが不味く感じられた。
「忌々しいアシュフォードめ・・・、奴さえいなければもっと上納金の価格を引き上げられるものを」
アスピーク・タウンの酒場の主人・アシュフォードはパリストにとって邪魔な存在であった。
通常ならば暴力を背景に脅せば、嫌々とはいえ従う町が殆んどだが、あのアシュフォードは違う。
町人に頼られる彼を切り崩すのにパリストは手を焼いていたのだ。
こちらにとって痛い事情を知っている節もあり、迂闊に手を出せずにいるのである。
「奴さえ消えればーー」
アシュフォードがいなくなれば頼れる者がいなくなり、瓦解するはず。
ならば手段を選ばずに消してしまえばいい。
しかし白昼堂々とそんなことをすれば、町人たちが反乱を起こすかもしれない。
そうなったら最後、どう転んでも金は取れず、こちらは少なからず被害を受けてしまい、何をしているのか分からないことになってしまう。
つまり何らかの『工夫』が必要となる。
そのための策は既にあり、パリストが既に行動に移していたのだが、失敗した。
先程の細身の男の件がそれである。
つまり今日は二重に失敗したという事になり、パリストの苛立ちもそれに比例して高まっていたのだった。