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だが名を変えても迫り来る賞金稼ぎから逃げるべく、二人でいくつもの町を転々としながらも、3、4年前にようやくこの町に落ち着いたのだという。
今では町の人々とゆったりとした生活を送ることに幸せを覚え、『アシュフォード』として暮らしているのだそうだ。
アシュフォードの話に、アリスは酒も口につけず、真剣に耳を傾けていた。
「『俺』をどうやって知ったんだい?」
俺、とはアシュフォードではなくゼニス・ドマ・センチピードとしての『俺』であろう。
「いくつもの町を探して、消息を辿りました。
最終的にはそこのランディさんに」
「あの姉ちゃんか・・・。
ったく、いきなり人を背中から撃とうとしやがってよ。
ま、その時は何とかなったんだが・・・こわい姉ちゃんだぜ」
心底怖かったというアシュフォードにアリスは思わず吹き出した。
この時、アシュフォードはまた逃げなければ、と考えたそうだが、
和解したランディがアシュフォードの素性を黙っていてくれると約束したので、逃げずに済んだのだ、と付け加えた。
同じく町に住む事になったランディとのその約束は今日、アリスに教えることで破られてしまったわけだが、
そのアリスが元相棒の孫娘、ということでその範疇には入らないようである。
ランディの人を見る目が確かだったとも言える。
「それにしても『俺』を探してた、っていつから?」
「ゼニスさんを探すと決めて旅に出て・・・八年、ですね」
「そんなに探してくれてたってのか・・・。
そりゃ悪い事をしちまったな。
相棒の孫娘が会いに探してくれてたってのに、
俺は逃げてばかりだったからな。
『平原の女王』の相棒が聞いて呆れるな」
自分が生きるのに必死だったとはいえ、か弱い娘一人に八年も探させたーーそれはつまり貴重な時間を奪ったという事にもなり、アシュフォードは悪いという思いから項垂れた。
アリスはそんなアシュフォードを見て、首を横に振る。
「そんな・・・あたしが勝手に探してただけです。
それにーー、
『アシュフォード』さんの今の幸せを壊すつもりもありません。
ただーー」
「分かってる。
『預かりもの』を引き取りに来たんだな?」
アシュフォードの言葉にアリスは頷いた。