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「こんなところで済まないな、アリス嬢。
上じゃあ落ち着いて話せないからな」
「いえ・・・こちらこそ、気を遣って下さってありがとうございます」
いくつか配置されたランプの光は本来暗闇の地下に厳かな光を生み出し、また室内に溜まる酒の匂いはそれを嗜む者にとっては食酒を誘う香りとなる。
アシュフォードはまずアリスにコップを差し出すと、酒を注ぎ始めた。
「・・・あたし、お酒飲めるほど大人じゃありませんけど」
「はっはっはっ、気にするな。
子供が酒飲んじゃいけないなんて決まりはないんだ。
遠慮せずにぐっとやってくれ」
「ふふ・・・それじゃ、遠慮なく」
舌を出して笑うアリス。
八分目まで注がれた酒をアリスは口に付けるや、そのままぐいっと流し込んでしまう。
一杯目から大人顔負けの豪快な飲み方に、アシュフォードも面食らう。
「はぁ・・・美味し・・・」
「くっくっく・・・もう一杯いきな」
「あはは、ありがとうございます」
酒を一気飲みしてうっとりとするように微笑むアリスを、おかしそうに眺めながらアシュフォードはまた空いたグラスに酒を注ぐ。
それすらも一気飲みしてしまうアリスは、ふと自分が飲んでばかりでアシュフォードのグラスが空いたままであることに気付き、今度はアリスが注いで上げるのだった。
アシュフォードもそれを一口、二口で空けてしまうから、瓶1つが空くのはあっという間である。
まるで突然競争でも始めたかのように、二人はハイペースで飲み続けるのだった。
「ーーさて、アリス嬢。
そろそろ自己紹介してくれねぇかな」
二人とも酒に相当強いのだろうか。
頬を朱色に染めつつも、話し方や行動に全く酔いを感じさせない。
そんな中、アシュフォードはアリスという名前を知っているにも関わらずそう持ちかけたのだ。
「・・・アリス。
アリス・ジェーン・カナリーです」
「ん。 それで?」
「もうお気づきだと思いますけど、
マーサ・ジェーン・カナリーは私のおばあちゃんです」
「マーサの孫娘・・・アリス、か。
うん、いい名前付けてもらったな」
「はい・・・」
アリスはアシュフォードの前で語る。
自分はマーサという女性の孫娘である、と。
ただアリスも言うように、アシュフォードは既に把握していたようである。
そういえばアリスを初めて見た時もアシュフォードはその名前を口にしていた。
彼にとって感慨深い名前なのだろうか。
そんなアシュフォードがアリスという名前を褒めるが、
褒められた当の本人は笑顔を浮かべながらも、それは何故か影を射していた。