P42
「(それにしても困ったなぁ。
これじゃ埒があか・・・あれ?)」
町の話に首を突っ込むわけにもいかず、途方に暮れていたアリスの目にふと入って来たもの。
それはカウンターから少し離れた位置にいる一人のウェイトレス。
アリスはすぐに席を立ち、目立たないように近付く。
そしてウェイトレスの背後に立つと、その肩を軽く2回叩いた。
「え・・・?
ーーあっ、アリスさん!」
「やっほぅ」
そのウェイトレスはマリアだった。
アリスを見るや笑顔を浮かべ、アリスも右手でピースを作りながら笑顔を返した。
「用事は済んだんですか?」
「ううん、まだなんだけどーー」
二人は小声で話す。
もし自分たちの声が喧騒を遮りでもしたら、自分たちも渦中に巻き込まれてしまうからだ。
「それよりも、取り込んでるみたいね?」
「はい・・・ごめんなさい。
折角来てくれたのに、こんな状態で・・・」
「マリアが悪いわけじゃないよ。
でもさ、何で揉めてんの?」
お盆を抱えたまま、ただ黙って見守るだけしか出来なかったマリア。
マリアがアリスに簡単に事情を話す。
論争の原因は『上納金』。
『上納金』とは開拓者が星頂人に対して一定の期間に毎度納めなければならない、いわば徴税である。
これを納めない場合、開拓者の町は町として認めてはもらえない。
言ってしまえば『潰されて』しまう。
星頂人は権力を振りかざすだけでなく、それを行使する力も有している。
柄の悪い連中を見ればその一端が分かるだろう。
上納金は安い金額ではないが、その代わりに納めれば町の存続が可能なばかりか、定期的に食料や身の回りのものなどの援助も受けられる。
仲は良好ではないものの、そういう契約の元、持ちつ持たれつの関係でもあるのだ。
だがこの上納金というのがトラブルのタネとなりうる。
何故ならばその金額は管理する者のさじ加減。
つまり管理する者によって勝手に上げられてしまう事がしばしば起こりうるのだ。
この街もその例に漏れず、
それは納得いかない、と今こうして町長などのメンバーが集まり、
星頂人と交渉を行っていたわけだ。
カウンターの内側を見るとメンバーに囲われるようにした白髪の老人が一人いる。
その老人が恐らく町長であろう。
対してカウンターの外に陣取る星頂人の側にも、他の者が立っている中、唯一メンバーに囲われて椅子に脚を組んで座る人物がいた。
指輪やネックレスをはじめとして、着ている服にも惜しげもなく宝石の装飾を施している。
左右にカールした髪、口元のちょび髭が特徴のその男。
星頂人側のボスと見て間違いない。