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どうしても嫌な予感が拭えないアリスは、開け放たれた窓から中を覗いてみる。
やはりいくつか設置してあるテーブルに座る人の姿は少ない。
だが奥を見ると右角に位置するカウンターに大人数が一同に集まっている。
こうして近づくと怒声が飛び交っているようでもある。
閑散としたテーブルに比べ、明らかにカウンター付近だけが異様な盛り上がりを見せていた。
「仲間内でギャンブルでもやってんのかなぁ・・・。
それなら別にいいんだけど・・・」
酔った連中が集まって簡単なギャンブルをし、負けた者が馬鹿でかい声を上げて悔しがる。
確かにありふれた光景であり、それなら問題はないだろうがーー。
ーー意を決したアリスは、ランディの店と同じスイングドアをくぐり、酒場の中へ入った。
『っざけた事抜かしてんじゃねーぞっ、このドブネズミ野郎が!』
「・・・やっぱり、お取り込み中ですか・・・とほほ」
入るのと同時に店内全域に響き渡る野太い怒号。
今、聞こえた怒声は明らかに相手に喧嘩を売る汚い言葉遣いである。
ギャンブルをしていて誰かが卑怯な手でも使ったか、酒の席特有の売り言葉に買い言葉の喧嘩か。
いずれにしてもトラブルの場所が、店主がいるであろうカウンター付近であるという事を考えると、もはや容易には事は進まないだろう。
アリスは大きくため息をついた。
店の人間も騒ぎに集中しているせいか、アリスが入って来たことに気付く者は一人もいない。
「我々だって個々の生活があるんだっ!
今だって爪に火を灯す思いでみんな必死に耐えて頑張っているといのに・・・、
それなのに更に上納金を増やせだなんて、あんたらは俺たちに死ねというのかっ!」
「ごちゃごちゃ眠たいこと言ってんじゃねぇよ!
お前たち『開拓者』は俺たちの言う通りに上納金を払ってりゃいいんだよ」
「そんな無茶なっ!」
取り敢えず空いてる席に着いたアリスは、カウンターの様子を伺いながら耳を立てて言い争いの内容を聞き取っていた。
どうやらある一派ともう1つの一派が対立しているようである。
しかもその内容は余所者の出る幕などない、
この町全体に関わる深刻な内容である。
見れば格好から二つの勢力は異なっており、
一方はアリスも馴染み深い、この町に住む者たちと似通った格好であるが、
もう一方は高級な布を使用したワイシャツの上に背広という一線を画す服装である。