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「『瞬きの撃ち手』、ゼニス・ドマ・センチピード」
そしていざその名前が語られると、ランディの目元が一瞬動く。
本当に一瞬の事だったが、アリスはその瞬間を見逃してはいない。
「この町にいるって聞いたの。
でも名前を変えて住んでるから、普通に探しても見付けられないだろう、って。
ただランディさんなら知ってるって」
アリスの声を聞きながらじっと睨むような視線を向けるランディ。
威嚇しようとしているわけではなく、何かを測り取ろうとしている、そんな視線だ。
「ーー知り合いなの?」
「う~ん、少なくとも向こうはあたしの事、知らないと思うけど」
「あなた賞金稼ぎ?」
「ううん。
ただ会いたいだけ」
質問に短く答えるアリスに、ランディはふと目を逸らして考え込むように俯く。
ただ会いたいという相手に対して、どう応えるべきか悩んでいるようである。
「ランディさんは知ってるんですよね?ゼニスのこと」
アリスの質問にランディは答えない。
だが雰囲気や様子から見れば、知っているだろう事はアリスも分かっている。
「・・・私、昔は賞金稼ぎだったの」
「へーっ。
あ、でもなんだか納得。
ただの宝石ブローカーにしては、雰囲気が殺伐とし過ぎてるもんね」
「一々、ハッキリとものを言う嬢ちゃんね。
・・・ま、いいわ。
それでこの町にいる事を突き止めて、その首をもらってやろうかと思ったのよ。
何しろ、『瞬きの撃ち手』と言えばーー」
「『平原の女王』の相棒、だもんね」
悪戯な笑みを見せられながら言おうとした事を言われてしまい、さすがのランディも少し驚いたような表情になる。
しかしそれを知っている事自体は、尋ねて来た者として不思議な事ではないから、ランディもすぐに納得する。
「その時のいざこざがきっかけで知り合いになったのだけど・・・それで?」
「え?」
「あなたはゼニスに何の用なの?」
「だからただ会いにーー」
「彼が何故名前を変えてるのか考えてみな。
ただ会いにきた、なんていう奴に教えることなんて出来ないね」
ランディはアリスを鋭く見返しながら『血石』の入った布袋を突き返す。
それは知り合いの素性を安易に売ったりなどしないという明確な意思表示だった。
困ったように小さく唸るアリス。