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実際は女は夜の散歩をしていたところを、突然あの二人の男に襲われたという事で、
それを聞いたアリスはようやく胸を撫で下ろす。
同時にアスピーク・タウンに住んでいる者でもあり、助けてくれたお礼がしたいということもあり、
アリスはマリアと名乗る女と共に町を目指すのだった。
ーー歩き始めて十数分ほど。
二人は町の入り口である柵の前へたどり着いた。
柵の横幅は全長にして二十メートル程になろうか、丸太を十字に組み合わせて頑強に造ってある。
その入り口には木彫りの『aspeek town』という文字が上半円を描くように築かれている。
備え付けられた左右の灯りに照らされながらアリスたちはその入り口をくぐり抜けると、視界に入ってきたのは両側にやや湾曲を描くように建ち並ぶ木造の家々と、その間を抜ける広いストリート。
夜になっていくらかの時間が過ぎているはずだが、まだ人の歩く姿が見られる。
「ようこそ、アスピーク・タウンへ!」
マリアがアリスの前に立つと、両手を広げながら迎えた。
余所者である自分を満面の笑顔で迎えられて、アリスは照れたように笑いを返した。
町の灯りとマリアの案内を頼りにさらに進み始めるアリス。
建ち並ぶ家とストリートはかなり奥まで続いているようだ。
そんな中、たまたま外を歩いていた町の人間がアリスを一目見て好奇な視線を送っている。
ほとんどの町にも言えることだが、余所者に対しては基本的に風当たりがきつい。
平和に過ごしている町において、余所者という存在は得てしてトラブルの種を生みやすいからである。
色んな場所を旅してきたアリスはそれは馴れている事だったが、一緒にいるマリアの存在がそんな町の人の警戒を緩めたのだった。
彼女が町の人に挨拶をしながら、アリスの事を自分の恩人と吹聴しているからである。
マリアは人気者なのだろうか、彼女を見る人、見る人が声をかけてくれている。
「私、この先の酒場でウェイトレスをしているんです」
「へーっ、看板娘ってやつ?」
「えへへ、看板娘なんて、私そんなに可愛くないですよ」
マリアの紹介にアリスは口では驚きつつも、どこか納得している様子だ。
エプロンをしている事といい、町の人に慕われている事。
話していても明るく、そして気さくそうな性格は接客商売にきっと向いているのだろう、と。