P30
「あ、あの急いでいるのでこれで・・・!」
「えっ?ちょっ・・・」
動揺、焦った様子でアリスの横を抜けて、今まで歩いてきた道を走って行こうとする女。
言うまでもないがその先に待っているのは砂漠である。
最低限の装備もなく、ましてあんな軽装で赴くところはない。
まるで何かから逃げているようなーー。
引き留めようとしたアリスの耳に、女が来た方向から今度は男の大声が聞こえてくる。
その方向を見遣ると、柄の悪い男が二人、それぞれ火の点いた松明を手にこちらに向かってきている。
それを見た女が逃げるように走り出した。
その様を見てある程度の状況を把握したアリス。
女を追うようにしてアリスの脇を通りすぎようとする男たちに対して、アリスは反射的に身体が動くのだった。
「・・・あっ、やば」
そんな声を漏らしながら進行方向を遮るように右足を前に出したアリス。
予想してなかった男の一人がまずそれに躓き、後のもう一人がそれに巻き込まれるように足を取られる。
二人は派手な転び方を見せ、顔から地面に突っ込む。
手に持った松明が二つ、地面に転がるものの火が消える事はなく、
まるで焚き火をしているかのように辺りを明るく染め上げた。
「痛ぇっ!
くそ、てめぇふざけやがって!」
「(あーあ、やっちゃった。
あたしってなんでこう条件反射で身体が動いちゃうかな~。
これじゃ仕掛けたのあたしじゃない)」
転ばされた男たちは当然のように激怒し、アリスはため息を漏らした。
女はこの男たちに追われて逃げている。
それは分かったものの、アリスは手を出すつもりはなかった。
ところが彼女の言うように条件反射で身体が勝手に動いてしまったようだ。
それがアリスの性分なのかどうかはさておき、転ばせてしまった以上は後戻りは出来ない。
アリスは開き直った。
「お、女の子を野郎二人で追っかけ回すなんて無粋な真似は、み、見過ごせないわね!」
男たちを指差しながら何故か少し照れた様子のアリス。
一瞬言葉を詰まらせそうになる。
「何者だ、てめぇは!」
「え?
んーと・・・と、通りすがりの正義の味方・・・かな。
あはは・・・」
男たちの質問にアリスは一瞬困ったような表情を見せながらも、咄嗟に思い付いたような言葉を歯切れ悪く発する。
一方、追われていたらしい女は、様子がおかしいのに気づいたか、
離れた位置で足を止めて、アリスの方を窺っている。