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紅砂を駆けるスタンピード ~blood of jane~  作者: 天王寺綾香
一章 カラミティ・ジェーン
29/265

P29

           1


ーー夜の大地。

月明かりの穏やかな光が、黄土色の地も濃い青に染め上げていた。

いつしか下には道のような舗装した跡が見られるようになり、アリスはそれを辿るようにして歩き続ける。

ゆっくりだが確実に目的の町が近づいているというのに、彼女のペースは一向に上がらない。

まるで辿り着くことに躊躇いがあるかのようだ。


「なんか緊張するな・・・」


自然と独り言が漏れだした。

何かに自信が持てない・・・そんな表情である。


8年。

彼女はある探し物を求めて旅をしてきたのは前に話した通りだが、

それを目前にして緊張しているという事か。

これまでの旅の一応の集大成と考えれば、確かに緊張するのも無理はないのかもしれない。

とはいえ長い間探し続けてきたものである。

それがもうすぐ目の前に現れようというのに、足が伸びないということにアリスは戸惑いを覚えているようだ。

それは自分の中で心の整理が付き切れていなかったという事、

すなわち探し物を見つけた時、自分はもはや『運命さだめ』から逃れられないという事だ。


「おばあちゃん・・・」


ふと足を止めて夜空を見上げるアリス。

思いに馳せたのは彼女の祖母。

家族を思うのは不思議なことではないが、アリスにとって祖母の存在は特に大きい存在であるようだ。


夜空の一点の星を探すように動く瞳。

・・・寂しく切ない視線だ。


「ううん、あたしがやるんだ。

あたし以外にやれる奴なんていない」


ボブと話している時もアリスは同じ事を言った。

自分にしか出来ないと。

今もそう。

自分に言い聞かせるように。

奮い立たせるように。


アリスは吹っ切るがためにかぶりを振ると、再び前を見据えて足を前に出そうとした。


「きゃあっ!」


「う、うぇ?

おっとっと・・・」


そこへ不意に正面から誰かがアリスの胸に飛び込んできた。

まず女らしき悲鳴が上がり、すぐ後にアリスが少し間の抜けた驚きの声をあげながら、自分の胸に飛び込んできた誰かを受け止めた。


「あ、ご、ごめんなさい、前を見てなくて・・・」


「え、あ、うん。

あたしの方こそぼーっとしてたから、あはは・・・」


薄汚れたベージュ色のチュニックに同じ色のロングスカート、エプロンを身につけた、栗色の髪の長い女性。

年はアリスと同じくらいだろう。

そばかすが特徴的であり、やや童顔の可愛らしい娘である。

ぶつかってしまった事を謝るその女性に対して、アリスはしどろもどろな返事をする。

考え事をしていたところに突然ぶつかってこられたわけだから、軽く動揺しているようだ。

しかし動揺しているのは目の前の女性も同じであるらしかった。

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