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「よし、目標北東へ20マイルだ!
用意はいいな、ボビー!」
『よっしゃ、親父!
いつでもいいぜ!』
備え付けられた開閉出来る鉄製の管に向かって声を飛ばすと、向こうからも鉄の中をこだましたようなボビーの声が返ってきた。
どうやら内部でも離れた位置にいる場合は、この伝声管を使って互いの声を繋げているようだ。
「嬢ちゃんも準備はいいな!
砂上船、『アンジェリカ』発進だっ!」
「・・・(何度聞いても不自然な名前だよね)」
出航の掛け声を上げるボブ。
しかしまるで女性の名前のような『船』の名前にアリスは違和感を感じずにはいられないようだった。
とにも、ボブが握るハンドルを前に強く押し付け、
更に足元に斜めに二つ立っている内の右のペダルを踏みつけるように押すと、アリスは後ろから押されるような衝撃を受けた。
外では先程から下部にあったたくさん列なった爪が、砂を掻き分けるように稼働しており、所々から突き出ているパイプからは黒い煙が噴き出している。
そしてボブの操縦に合わせて方向を修正すると、ゆっくりと前進を始めるのだった。
どのような機構で、そして何を燃料として稼働しているのかは想像も付かないが、
ボブの自慢の女房という『砂上船』・アンジェリカはこうして発進したのだった。
操作盤に二つある針メーターの内の1つがじりじりと左から右へと動き、それに合わせて徐々に増していくスピード。
更に比例して船全体の揺れも激しくなっていく。
不意に船がバラバラに分解してしまうのではないかと思わすほどの揺れであるが、
そこはかなり頑強に造ってあるようだ。
もっともとても立っていられないほどの揺れであるから、乗り心地はお世辞にも良いとは言えない。
船内では時折操縦に関して、そのサポートをどこかでしているボビーに対し、しっかりやれ、などのボブの野次が飛んだり、
操作盤がたまに火を噴いたりなど、激しい揺れと併せて落ち着くものではない。
しかしながら人が歩いていくよりも遥かに早いスピードで船は進み、何とかアリスは目的地であるという場所に辿り着きつつあるのだった。