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「ーーところでどこまで行くんだよ?」
「・・・ここからだと北東の方角、20マイルってとこかな。
そこに町があるはずなんだけど」
「北東の町ってぇと、アスピーク・タウンだな。
そこにあるってのか?」
アリスは黙って頷いた。
あんな所に・・・と、疑問に思うところもあったようだが、
彼女なりの確証があるのだろう。
頬に手を遣りながら考えていたボブは、何かを決めたように手を叩いた。
「よし、なら俺が送ってってやるよ」
「・・・いいの?」
「任せなって。
さっきの整備の具合も知りてぇしな。
丁度いいや」
「ありがと。助かる」
送って行くという言葉に素直に甘えることにしたアリス。
ここは砂漠の真ん中であり、北東へ20マイルという距離をどのようにして送り届けるというのか。
その答えは今、アリスが佇んでいるこの巨大な鉄の固まりにこそある。
「おーいっ!ボビー!
出航の用意だ!
すぐに支度しやがれっ!」
突然怒号にも似たけたたましい声を上げるボブ。
すると部屋の頭上、天井の一部が内側に開いてそこからボビーが逆さまに顔を見せた。
「え?
でも親父、出発は明日の朝って・・・」
「予定変更だ!
アリス嬢ちゃんを目的地まで送る!」
「えぇ?
姐さん、もう行っちゃうのかよ?
せっかく色々、話を聞こうと思ったのに」
「ゴメンね、ボビー。
また今度ゆっくり、ね」
地面が開いたり、通路の奥に消えたはずのボビーが天井から現れたりと不思議な構造のこの場所だが、アリスは馴れた調子である。
「いいからてめぇは早ぇとこ配置につきやがれっ!
しくじったら砂漠に放り出すからなっ!」
「ら、ラジャーっ!」
アリスが出掛けるのを知って残念がるボビーだったが、父の激しい剣幕に弾かれるようにまた何処へ姿を消してしまう。
そしてその父親は椅子を移動させて、何のとためにあるのか分からなかった操作盤に向き合った。
そして馴れた手つきで操作を始めると、最後にハンドルを両手に持って手前に強く引く。
すると一度激しい揺れがあったかと思うと、部屋全体が小刻みに震え始め、何かがどこかで稼働するような音が耳を激しく震わす。
「嬢ちゃん、座ってしっかり掴まっててくれよな」
「はーい、『船長』!」
知らない者にはこれから何が起こるか分からないだろうが、既に知っているアリスは茶目っ気を見せながら指示通りに椅子に座る。