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ーーひとしきりの取引を終えて、軽く雑談を楽しんでいたアリスとボブ。
ふと丸い形をした透明の窓のようなものから外を覗くといつしか暗くなっていた。
『紅血砂』も通り過ぎたようで、外は静寂を取り戻していたようだ。
「さて、と・・・。
そろそろ行かないとね」
「何だよ、もう少しゆっくりしてきゃいいのによ。
ま、こんな場所だがな」
「ん・・・、
出来れば早い内に着いておきたいから」
「そんなに急ぐのかい」
名残惜しむボブに、席を立ったアリスは頷いた。
「ーーやっと見つけたの」
一言、アリスがそう言うとボブはすぐに何か思い当たったように二度頷いた。
「例の・・・あれか」
「うん」
「・・・そうか。
嬢ちゃんはそれを探すために旅してたんだもんな。
・・・何歳ん頃から探してんだっけか?」
「十一」
「てことは8年か・・・。
俺たちが知りあったのが5年前って事を考えると、嬢ちゃん、本当に長ぇ間、それを探して旅してきたんだな」
何かを探す旅、8年。
アリスは哀愁を漂わせるような笑みを見せつつ頷いた。
人生のおよそ半分を費やして見つけたというアリスに、何故か嬉しさは感じられない。
「確かに長かったけど・・・でも、まだそれがゴールじゃない。
それを手に入れてやっと・・・、やっとスタートラインに立てるの」
「嬢ちゃん・・・」
「あたしがやらなきゃならないことだから」
決意に満ちた眼差し。
それは一体どこへ向けられているのか。
十一という少女の時代に決意させ、8年も揺るがさずに秘めていた『やらなければならないこと』。
その終着点とは一体どこにあるのか。
ボブはアリスの事情をどこまで知っているのか、神妙な面持ちでアリスをじっと眺めている。
「・・・本当、似てきたな」
「えっ?」
「5年前はとても信じられなかったけどな、
今こうしてみると本当にそっくりだぜ。
ばあちゃんの若ぇ頃にな」
「・・・そうかな?」
「ああ、昔に戻ったみてぇだ」
5年前、アリスが十四の頃から今まで見てきたボブ。
成長した彼女を見る目は喜びに満ちているようである。
またその姿を見て祖母にそっくりだという辺り、
ボブはアリスに関してかなり深い部分まで知っているようである。
だからこそ、アリスも気を許して自分の事を話しているのだろう。