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「・・・おい、あんたも早く出せや」
デックがしびれを切らすように眉を吊り上げながら目を向けたのは最後の一人。
すなわち三人目。
それに合わせてバイスも訝しげにその者を視界にとらえる。
一言も声を発しなかった三人目。
だがこの三人のなかではある意味一番異様な雰囲気を発していたのだ。
なぜならその三人目は顔から足元に至る全身に、
大きな白いマントのような布を纏っていたからだ。
マントを羽織ること自体は砂漠の砂を被らないようにするという意味で不思議ではないが、
人と話すときは顔ぐらい見せるものだろう。
見える部分といえばマントが開かないように、
両側を互い違いの手で押さえるわずかに露出した指の部分、
そしてやや小さめのブーツを履いた足くらいのものだ。
顔の部分も布が少し開いてはいるが、影になってその表情や顔を伺うことはできず、
男なのか女なのか、それすらもわからない。
そんな三人目だが、
他の二人の視線を受けて不意にマントを押さえていた片方の左手を引っ込めると、
マントの中で何かをまさぐるようにしている。
ややあってマントの中から突き出すように出てきたのは、
二人の男たちが放ったものと同じ布袋を五つ持った細い腕。
指の出た手袋をしたその手に握られた布袋を、
すでに砂地の上に出されていた合わせて六つの布袋の上にそっと放り投げた。
「へへ・・・、
顔もろくに見せねぇ不気味な野郎だとは思ってたがよ。
そのマントの中にしこたま貯め込んでるってか?」
自分やバイスよりも多く袋を差し出したのを見て、
デックは含んだ笑い声をあげた。
「いやいや、今の細腕を見ると・・・ひょっとして野郎じゃなくて、
女じゃねぇのか?」
「だったらちょいと期待しちまうぜ。
『事』が終わったらちょっとしたボーナスステージにありつけるかもってなぁ」
わずかに覗かせた三人目の特徴からバイスが推測してみせると、
デックが言葉を紡ぎ、二人は合わせて下卑た笑い声をあげた。
女であった場合のボーナスステージというものがどのようなことを差すかは分からないが、
その笑い声を聞けば、綺麗なことではないのは明らかであろう。
「・・・さて、『賞金』も揃えたことだし早いとこ済ませちまおうじゃねぇか」
「そうだな。
モタモタして砂嵐にでも見舞われたら洒落にならねぇからな」
変わらず黙ったままの三人目を他所に、
バイス、デックが続けざまにそう切り出すと、
二人は同時に自らの『得物』を抜いた。