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「ーーシャアアアアアアアっ!!」
だがそんなクリークの邪な考えに罰は下された。
炎の中から現れた黒い影がクリークの左から迫り、その頬を殴り飛ばす。
全く予想していなかったクリークは地を激しく転がり、全身を地面に強く打ち付ける。
「クリーク?!」
「クリークさんっ?!」
うつ伏せに倒れたクリークは死に際の虫のように身体を震わせている。
アリスとリリィが同時に呼び掛けると、真っ赤になった頬、そして口から流れる大量の血を晒す顔を、何とか起き上がらせる。
「い、いやぁ・・・やっぱり僕ってツイてませんねぇ・・・。
折角、任務を果たして手柄を独り占め・・・っと思ったのですが・・・あはは」
そのまま力尽きたかのように再び顔を地にめり込ませるクリーク。
恐らく気絶したのだろうが、アリスとリリィは今はそんなことよりも突然現れた黒い影の方を振り向いた。
ーーそこには、全身を裸に晒したヴァージニスの姿があった。
晒したその肌は赤い皮下組織を露出させ、何ヵ所かは大きく抉られたような痕が見られる。
髪は大半が失われていて、左目は開けられないのか閉じたままである。
だがそれらの傷痕にはじゅくじゅくと泡立つように何らかの水分のようなものが蠢いている。
「そ・・・そんなっ!
ま、まさかあれで生きてるなんてーー」
リリィが尻餅を着きながら身体を仰け反らせる。
アリスも驚きも大きいだろうが、まだ生きていたということに歯を食いしばらせながら、ヴァージニスを強く睨み付ける。
「・・・『超高速活性細胞』。
あの程度の爆弾じゃ・・・あたしは死なないんだよぉっ!
あはははははっ!!」
爆弾の直撃を受けたはずのヴァージニス。
目の前で弾けた爆弾に加えて誘爆した爆弾。
通常ならば跡形も残らなかったはずのヴァージニスはなお、こうして生きていた。
その秘密が彼女の言った『超高速活性細胞』というものなのだろうか。
こうして見ている間にもヴァージニスの傷口はみるみる塞がっていき、まるで次々と新しく生え変わるかのように再生されていく肉体。
抜け落ちた髪もぞわぞわと不気味に伸び始め、もはや人を纏った人為らざる者の光景がそこにある。
傷が治るのはティアマトーを握るアリスも同じだが、そのスピードはまるで比較にならない。