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「いやぁ、それにしてもさっきのリリィさんの二挺拳銃の技はお見事でしたねっ!」
クリークが拍手するように手を叩きながらリリィを褒める。
さっき、ヴァージニスが投げた爆弾を起爆させないように押し返したのは、リリィの咄嗟の曲撃ちの技によるものだが、
ここ一番でそれをやってのけたのは確かに神業といってもよい。
「でも奴を直接撃つことも可能だったでしょうに。
ずいぶん回りくどいことをされましたね?」
「出来ませんよ、そんなことっ!
仮にもお姉様のお母さんを私が撃つなんてーー」
何とか背を起こして座りながら傷に耐えるアリス、後ろからその背中を支えるようにすり寄るリリィ。
そんなリリィの方に首を向け、アリスはその手を力なく握りしめた。
「・・・ありがとう、リリィ。
気を遣わせて・・・。
なんだかあなたには助けられっぱなしね」
穏やかに笑いながらお礼を言うと、リリィはにっこり笑顔を明るい見せた。
自分の事を助けてくれながらも、敵が母親であると言うことを考慮してくれたリリィの気持ちにアリスは心打たれてもいるようだった。
「(やれやれ、色々と面倒が重なりましたがーーこれはこれでいい結末かもしれませんね。
あの厄介そうな相手を倒してくれたんですからね)」
そんな二人を顔では穏やかそうに見守りながら、頭では冷ややかに一計を立てようとしているクリークがいた。
「(後は焼け跡から漆黒の銃剣をゆっくり回収するとしてーー。
白銀の銃剣は今、ここで頂くとしましょうか。
息も絶え絶えのこの最後の『災厄の血』を抹殺して・・・ね)」
ほくそ笑むクリーク。
彼は少なくともアリスに関しては助けたのではない。
満身創痍のアリスから今、ティアマトーだけでも確実に回収しておこうという下心があったからである。
見たところアリスの傷は重く、未だまともに動ける身体ではない。
そして今回は短い間に治ったりする傷でもなさそうだ。
マルガリータの時は失敗したが、今度こそという思いもクリークにはあったのかもしれない。
「(さて・・・白銀の銃剣の『力』とやらでアリスさんが動けるようにでもなったら面倒です。
早いところ手柄を挙げさせて頂くとしましょうか)」
クリークの中でアリスに対する殺意が膨れ上がった。
奪うだけなら殺す必要はないが、面倒は後に残さない、というクリークの冷徹な現実主義である。
懐からナイフを取りだし、瀕死のアリスを背後から刺し殺そうと、クリークは一歩前へ踏み出した。