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幸い、ぼろぼろにされたとはいえ、マントを羽織っていたこと、
またリリィの行動が早かったこともあり、アリスは火だるまにならずに済んだ。
マントを素早く脱がせ、所々燃え移った火を消せば、アリスは軽度の火傷しか負っていない。
「お姉様!」
「リリィ・・・」
リリィが呼び掛けると、地に仰向けで横になるアリスは何とか笑みを返す。
意識がやや白濁なようだが、それでもティアマトーと愛用の拳銃はしっかりと握りしめている。
火傷にヴァージニスに斬られた傷など、見ていて痛々しいが、二つの武器をしっかりと握りしめる力は確かな活力であった。
一方、自らの爆弾で自滅した形となったヴァージニスの方では更なる爆発が重なるようにして起きる。
ヴァージニスは懐にまだ二つの爆弾を抱えていたから、それが誘爆したのだろうか。
誘爆によって更に爆発の勢いは苛烈になり、一度は離れたアリスとリリィにその余波が襲いかかる。
だが周りを炎に撒かれていて、二人にこれ以上逃げ場はなかった。
迫る爆風と炎の恐怖にリリィは顔をひきつらせる。
『ーーはい、失礼しますよ』
そこへ聞こえた声。
それを耳にしたアリスは身体を持ち上げられるような感覚、リリィは服の裾を掴まれるような感覚を同時に味わう。
ーーそして一瞬訪れる視界の暗転。
次に視界が開けた時はアリスとリリィは『場所を移動していた』。
そこはまだ火に撒かれていない安全地帯。
瞬間移動したかのような感覚にアリスとリリィはただ戸惑うばかり。
「ーーいやぁ、危ないところでしたねぇ」
そんな声と共にアリスとリリィは地に下ろされる。
蘇った疼くような痛みに顔を歪ませながらアリスは背後を振り向くと、そこにいたのはーー。
「ーークリー・・・ク」
クリーク。
変わらず屈託のない笑顔がアリスを見返してくる。
「あんたがーー?」
「はい。
さすがに今のは助けないと危ないかな、と思いまして」
「どう・・・やって?」
「それは企業秘密、ということで」
クリークが誤魔化すように笑い声をあげる。
どうやらアリスとリリィはクリークに何らかの方法で助けられたようだ。
普段ならもっと突っ込むところだが、アリスの身体の状態がそれを許してはくれなかった。
まさに身体中、痛くないところはなく、視界も揺らぐ。
大量に出血しているため、貧血を引き起こしているのかもしれない。
「お姉様、あまり無理しちゃダメですよっ!」
「だ、大丈夫・・・しばらくすれば治るからーー」
「だとしても!
今はじっとしていた方がいいです!」
怒るように言うリリィにアリスは笑顔で応えた。