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「これしか・・・ないっ!」
アリスには一つだけその攻略法を見いだしていた。
あるいはその方法は、今、アリスが出来る『超高速移動』を破る唯一の手段なのかもしれない。
アリスは最後の力を振り絞るようにして、立ち上がれないはずの身体を立ち上がらせた。
「ーーヴァージニス!
来いっ!
あんたが欲しがってるティアマトーはここよっ!
あたしを殺して奪ってみろっ!!」
高速で飛び回る影・ヴァージニスに渾身の挑発を叫ぶ。
疼くような傷痕を庇うようにしながらも、右手にティアマトーをしっかりと握りしめながらアリスは必死にヴァージニスの動きを追いーーそして。
「ーーティアマトーぉおおおっ!!よこせぇえええっ!!」
アリスの背後から迫る影。
後ろからジャンヌのように串刺しにしようというのか、手に握る刃形態のファフニールの切っ先を真っ直ぐに突き出している。
だが動きを視ることは出来るアリスはすかさず身体を振り返らせてヴァージニスと向き合う。
その時にはファフニールの刃は胸元へと迫っていた。
もはや回避は間に合わないーー。
ーー否。
最初からアリスに回避するつもりなどない。
予めこう、と決めていた通り、
胸元を庇うように左腕を横に構えてそこをファフニールに貫かせた。
アリスの表情が一瞬苦痛に歪むが、すぐにそれは勝ち誇るような笑みに変わる。
「ーー止めたわよ、ヴァージニスっ!!」
自らの身体を貫かせたこの瞬間のみはヴァージニスの動きが止まる。
すかさず右手に握ったティアマトーの銃口を向けて、そのトリガーに指をかける。
ヴァージニスもファフニールを引き抜こうとするが、アリスは腕の肉でその刃を掴むように力を込めているため、すぐには引き抜けない。
まさにアリスの渾身の意地、これだけは引き抜かせない、そんな鬼気迫る思いがアリスの表情には顕れていた。
「終わりよ・・・ヴァージニスっ!」
いくらアリスが力を込めているとはいえ、いずれは引き抜かれただろうファフニールの刃。
だがその時間はアリスが眼前にいるヴァージニスにティアマトーを向けて引き金を引くには充分な間であった。
目元に涙を滲ませながら、これで終わりーー。
災厄を振り撒く狂乱の血に終わりを与えるべく、アリスは感情を押し殺しトリガーにかかった指に力を込めたーー。