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「お母さんって、でもあれはどう見てもーー」
「ええ、そうなんです。
僕も黒い刃の女を見るのは今日が初めてですがーー、
僕の調べでもヴァージニス・ジェーン・カナリーは三十代後半から四十代前半のはずです。
にも関わらず、あの若さはーー」
アリスの母だというヴァージニス・ジェーン・カナリー。
しかし今、アリスが対峙している女は明らかに同い年か、どう高く見積もっても二十代前半の若さである。
アリスが十九という事も考えれば、本来、ヴァージニスがあんなに若いはずがないーー。
「何か秘密がありますね、あれはーー」
「お姉様・・・」
ヴァージニスに隠された謎。
クリークはその謎を追い求めるように二人を見つめていたが、リリィはただ心配そうにアリスを見遣る。
するとずっと刃を合わせていた二人が、遂に弾かれるようにして両端に離れた。
「ーーティアマトーっっ!」
アリスが叫ぶ。
ティアマトーを銃形態へと変え顔の前に構えるようにすると、それから伸びた管がアリスの手首が突き刺さる。
ーー脈打つ管。
アリスの血が管を通してティアマトーへと流れ込む。
「ーーティアマトー・・・よこせぇええっ!」
その様を見ていたヴァージニスが動く。
漆黒の武器を持つ右手ではなく、左手を前に突きだし、正面からティアマトーを奪い取ろうとするように前へ出た。
二人の距離が半分ほどまでに縮まった時、アリスはティアマトーを握る手を勢いよく突き出す。
「ーーフルバースト・・・シュートォっ!!」
そしてトリガーを引くと同時に発射されたのは、これまでに見せたその口径に合わせた弾丸ではない。
銃口から一瞬にして膨れ上がった巨大な『紅い球体』。
ヴァージニスの身体を丸ごと飲み込もうかという大きさまで成長したそれが撃ち放たれるや、地面を削り、風圧が舞う火の粉を吹き散らしながら標的へと突き進む。
「ーーシュアアァアアアアアっ!」
標的たるヴァージニスは逃げない。
銃の形を取っていた漆黒の武器を刃の形態へと瞬時に変化させると、迫る巨大な紅の球体に向かって真っ直ぐ縦にその刃を降り下ろした。
すると半分に切り裂かれるように二つの半球となった『弾丸』は、狙いが逸れてヴァージニスの両側を斜めに突き抜けていく。
そのまま燃え盛る火を吹き散らしながら突き進んだ二つのそれは、その先にある壁に当たるや凄まじい爆音と共に破壊し、この採掘場全体を揺るがしながら岩壁が崩れる。