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「ーーぅうあぁああああぁっ!」
「ーーシャアアアアアアっ!」
アリスが怒りの轟声、ヴァージニスは獣の咆哮を上げながら二人は同時に地を蹴り、正面から影を重ねる。
そして食い込み合う互いの刃。
それは八年の時を越えた『親子』の対峙、またかつてマーサがゼニスに片方を託して以来、数十年に渡って二つに分かれた黒と白の武器の懐かしき抱擁であった。
ーー限りなく距離を近付けながら見つめ合う二つの瞳はやはり紅く輝き、それが二人の間に『同じ血』が流れていることを証明している。
互いに刃を合わせたまま一歩も退かぬ二人。
まるで遠く時を越えた、本来一つであるべき二つの因子が再び分かれる事を拒んでいるようでもある。
「(ーーあの『紅い瞳』。
あれこそが『ジェーンの血』を引く者の証・・・ですか。
気持ちが昂る時に表れるという、その血特有の生体現象ーー)」
火に撒かれた空間で対峙する二人を、今、唯一その目に見ているクリーク。
既に坑道をと繋ぐ入り口も炎に撒かれつつあるというのに、一向に逃げる気配はない。
「お・・・お姉様・・・」
「おや、気が付かれましたか」
そんな中、傍らで倒れていたリリィが目を覚ました。
高まる熱気と空を舞う火の粉が、彼女の意識を呼び起こす助けとなったのだろう。
ただすぐには立ち上がれないのか、膝を付いて周りを見渡したあと、ようやく炎の中で対峙する二人を見つける。
「お姉様・・・!」
「僕たちは運がいい。
何せ、現代のカラミティ・ジェーン二人による対峙をこの目で見る事が出来るんです。
僕たちは歴史の証人となれるかもしれませんよ」
「二人の・・・カラミティ・ジェーン?」
「数年前から世界を騒がせていた『黒い刃を持つ女』ーー。
その正体はヴァージニス・ジェーン・カナリー。
伝説を最初に作った初代カラミティ・ジェーン、マーサ・ジェーン・カナリーの娘でありーーそして、あのアリスさんの母親・・・」
「お姉様の・・・お母さん?」
クリークが頷く。
ジェーンの家族について知ってる部分が多いクリーク。
彼は自分の仕事は主に情報収集が中心だ、と語っていた。
つまりそれは彼の生業によって得た知識ということなのだろうか。
だがそれを聞いたリリィは目を細くして、距離の離れたヴァージニスの顔をじっと見つめる。
その顔は髪の毛の色が違うだけで、アリスと瓜二つのそれであった。