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焼かれるジャンヌの身体に傍らに、ふと姿を現すヴァージニス。
爆発の瞬間、被害に巻き込まれぬよう自分だけはいずこかへ瞬間的に姿を消し、そしてまた現れたーー。
わずかな時の間に起きたあまりの出来事に、リリィの傍らに立つ普段は絶えず笑顔を見せているクリークも、驚きを隠せないのか眉を眉間に寄せ、あんぐりと口を開けたまま、頬に冷たい汗が流れるのを感じていた。
「(ば・・・馬鹿な、あのジャンヌさんをあんなにたやすく、それも一瞬でーー)」
そう、まさに1分と時を刻まぬ圧倒だった。
クリークが屈指の実力と信じて疑わないあのジャンヌ、『ベガルタの剣』が一瞬の内に倒されてしまったのだ。
「(いくらジャンヌさんが『あの力』を使っていないとはいえーーなんと恐ろしい・・・。
アークダインさんが殺られてしまうわけですね・・・)」
ヴァージニスの力に驚愕し、恐怖を感じながらもクリークは頭の中では冷ややかに分析していた。
「ーーヴァぁージニスぅっ!!」
そんな中で一つの猛る声がクリークの耳を、そして呼ばれた本人の鼓膜を震わせた。
呼ばれた本人ーーすなわちヴァージニスがゆっくりと身体をその方向へ振り返らせると、離れた先に自らを狙って白銀に輝く銃を向ける少女の姿があった。
「ヴァージニス・・・あんただけは許さないっ!」
白銀の武器を持つ少女、アリス。
ヴァージニスを睨むその瞳は、まるで怒りの炎に包まれているかのように紅く変色していた。
そして同じく紅く光る瞳を持つヴァージニス。
その瞳はアリスとは違って不気味に揺らめく、幽霊のような畏怖を見る者に与える。
「・・・ティアマトー・・・白銀の銃剣・・・。
私の漆黒の銃剣・・・ファフニール・・・。
遂に・・・二つが・・・揃った」
ヴァージニスが見るのはアリスではなく、彼女が持つ白銀に輝く武器。
自らも赤黒い武器をアリスに見せつけるようにしながら、ゆっくりと足を進め始める。
銃口を向けられているというのに、まるで無防備な歩みだ。
アリスも折角、銃口を向けながら撃つ気配がない。
周りを覆う炎による熱気で、この採掘場の温度が高まっていく中、二人の距離はゆっくりと縮まっていった。
「ーーヴァージニス、あたしよ。
アリスよ」
「・・・アリス・・・?」
「そうよ、あたしの事・・・まさか忘れてないわよね?」
そんな中でアリスがそう話しかけると、ヴァージニスは足を止めてようやくアリスの顔をまじまじと見るようになる。