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ーー数十秒前。
ジャンヌの副官・グレッグスはある決意を固めていた。
軍神と謳われ、自らも敬愛するあのジャンヌがあろうのことかあのカラミティ・ジェーンの血を引くと戦い、深手を負ってしまった。
ジャンヌは手を出すなと命じたが、このまま手をこまねいて、万が一にもジャンヌを死なせるわけにはいかない。
責めを負う覚悟でグレッグスは決断を下した。
その決意の元、グレッグスは懐から銃を抜くとそれをゆっくりと気取られぬようアリスに向ける。
幸いなことに、自分の位置はアリスからすれば死角。
またジャンヌとの戦いに集中している。
額に汗を滲ませながらも気配を殺し、指にかかったトリガーを静かに引き絞ろうとしていた。
そしてアリス・ジャンヌが寒気を感じた同時間。
グレッグスもまた、背後に忍び寄る何者かの気配を感じ取る。
首を左に動かし、左目だけで背後を見遣ろうとした。
そんな彼の目に最期に映った少女の姿ーー。
それは今まさにジャンヌが戦っていたあのアリスと瓜二つであった。
それをそうと思うやいなや、少女はグレッグスの左肩を引いて自分の方へ向かせると、自らの口に無理矢理歯をへし折りながら、力任せに何か固い鉄の塊のようなものを突っ込まれる。
折れた前歯の痛み、舌に広がる血と鉄の味ーー。
自分の口に突っ込まれた異物の正体が分からないままグレッグスは少女に強く押されて後ろにたじろぐと、
少女は手にした銃のようなものをその異物に向けて引き金を引いたーー。
グレッグスの意識はそこまでだった。
彼は口に小型の爆弾を無理矢理埋め込まれ、少女はそれに向けて引き金を引いた。
同時にグレッグスの身体は頭から爆破炎上し、跡形もなく吹き飛んだ。
「ーーグレッグスっ!?」
急な寒気に襲われ、その後に強烈な殺気を感じ取ったアリスとジャンヌ。
その方向に目を向けると、不意にそこにいたグレッグスの身体が吹き飛んだのだ。
突然、爆破された部下の名を叫ぶが、もはやそこには彼の下半身の一部だけが無惨に残され、肉片が周囲に飛び散っていた。
一体何が起こったというのか?
ジャンヌがそう考えながら、爆発により生じた煙に目を凝らすとその中に黒い影が映る。
「ーー何者だっ?!」
ジャンヌが吠えるようにその黒い影に向かって声を飛ばすと、同時に煙の中に揺らいでいたその影は姿を消した。
だが姿を消そうとも、禍々しい殺気までは消せない。
アリスと共にその方向を見ると、どうやって移動したのか、数メートル離れた発掘用に特設した高台にその黒い影は現れたのだ。