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「あなたを倒すには単純じゃ駄目だからね。
二重、三重に策を打たないとその鉄壁の守りは崩せない」
「私の挑発に乗ったように見せたのも・・・全て小芝居、ということか」
「ううん、あれは本気でムキになりましたよ。
でも、だからこそあなたを騙せたのかもね」
「ふふ・・・強かな奴め。
だが、この程度で私に勝ったつもりかーーっ
互いに笑みを浮かべた後、ジャンヌは立ち上がった。
脇腹の銃創は明らかに深手。
その証拠に傷口からは大量の血が今も流れ出ている。
「・・・もう止めませんか?
お互いに、これ以上やっても不毛に血を流すだけですよ」
「これしきの傷で私は退いたりはしない。
さぁ、白銀の銃剣を拾え。
私を倒さぬ限りお前は先にも進めず、後にも退けぬと知れ」
「もう・・・融通きかない人だなぁ」
アリスはこれ以上の戦いは御免、と持ちかけるもジャンヌは拒否。
しかも投げ落ちた武器を拾って仕切り直し、というジャンヌの意志は、彼女の性格・性根なのだろうか。
アリスは呆れたように頭をかく。
ジャンヌは既に一度は下ろしたガ・ジャルグを拾い、臨戦態勢に入っている。
白く輝く『気』も健在である。
後はアリスがティアマトーを拾えば再開ーーだが。
ーーどうしても生死を分かつ決着をジャンヌは望むというのか。
アリスも軽くない傷を負っているとはいえ、ジャンヌほどではない。
勝敗は分からないにしても、アリスが有利に戦えるのは間違いない。
だがアリスはこれ以上戦う気にはなれなかった。
「どうした、アリス・ジェーン・カナリー!
さっさと白銀の銃剣を拾えっ!」
急かしてくるジャンヌ。
このまま自分がティアマトーを拾わなければ戦いを避けられるーーはずもない。
機転のきくアリスもこれには困っていた。
ーーしかしそんな悩みも唐突に打ち切られる。
アリスとジャンヌは同時に『寒気』を覚えた。
突如襲ってきた『黒い殺気』に彼女たちの研ぎ澄まされた危機を察知する能力が、寒気となって本能に訴えてきたのである。
「(な、なに・・・っ、この嫌な気配はっ?!)」
「(馬鹿な、私がここまでこんな強い気配の接近を許してしまうとはーーっ)」
アリスとジャンヌは同時にその方角を見た。
その方角とは、ジャンヌの隊の副官、グレッグスがいる方向。
ーーそしてそうするのと同時。
グレッグスの身体は爆破炎上し吹き飛んだ。