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この世界の文明では有効な防御手段は未だ確立していないため、
紅血砂に対しては、とにかくその砂を遮断する事が肝要である。
デックやバイスのように口は三角巾などで覆い、肌は露出しない服装を心掛ける。
または最初アリスがそうしていたように、
マントなどの大きな布で身体全体を覆い隠してしまうのも手段の一つである。
ところが今のアリスはマントを風呂敷代わりに使っている。
アリスは思案を巡らせる。
風呂敷をマントに戻すとせっかくの賞金を捨てなければならない。
「うーん・・・、
『合流ポイント』まで走るしかないかな。
こんなことならもう少ししっかり装備してくるんだったな」
命あっての物種とはいえ、
賞金を捨てる気にはならなかったアリスは、やむを得ず走ることにした。
足を取られやすい砂場を走るのは、土の地面を走るのと比べて格段に体力を消耗する。
しかもアリスが持っている賞金は重量がありそうだ。
しかしながらアリスは表情一つ変えない大股の快走を見せ、
彼女の言う『合流ポイント』へと急ぐのだった。
ーーそれから少しして。
少しずつ吹き始めていた風はやがてその勢いを増しつつある。
アリスの背後からは既に立ち上がった砂煙が追走してくる。
それに飲み込まれれば一貫の終わりだ。
「ーー見えた!」
徐々に表情に焦りを窺わせていたアリスだが、
遂に何か目印のようなものを見つけたようだ。
アリスの遥か前方に見えた小さな影。
それを確認した彼女はラストスパートをかける。
風を置き去りにするかのような正に疾走。
影との距離を一気に縮めていき、その正体が露になる。
濃緑色の鉄の装甲で覆われた四角い『モノ』。
全長はおよそ6メートル、高さは4メートル程になろうか。
所々から鉄のパイプ、歪な形容し難い何かが突き出していて、
底には無数の巨大な爪のようなものが連なって並んでいる。
建物なのか、あるいは巨大な乗り物か。
いずれにしても砂漠に覆われたこの地には、あまりに不似合いと言わざるを得ない。
しかしアリスはその巨大な何かに真っ直ぐに駆け寄り、
ある一角に存在していた取っ手を引くと、
内部へと繋がる扉が開いた。
そのまま迷うことなく内部へ入り込み、素早く扉を閉める。
ーー外ではすぐに激しい砂嵐が追い付き、アリスが入った巨大な鉄の固まりを覆い尽くした。