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通常ならば重力に従って地に落ちるはずのそれが、そうはならずそのまま宙に留まった。
ーーまるで超能力。
持てばかなりの重量を感じるであろうあのゲイボルグが白い輝きを放ちながら宙に浮いているのである。
「ーー私とこのゲイボルグ、そしてガ・ジャルグは『気で繋がっている』。
そして私の思うがままに動かせる・・・このようになっ!」
ーー突然行われた攻撃。
ゲイボルグから離した右手を勢いよく前に振りかぶると、白銀の槍は何かに押されたように凄まじい勢いで前に飛び出した。
その行く手にはもちろん、アリスがいる。
「う・・・っ!」
驚くよりも先に身体が動く。
猛烈な速さで襲い来るゲイボルグにアリスは左に飛んで体をかわす。
直後に自分がいた場所をゲイボルグが通過するのを見送ったアリス。
これだけならばただ投げたのと変わりないが、もちろんこれで終わりではない。
ジャンヌが何かを操作するように右手を動かすと、通りすぎたはずのゲイボルグが方向を転換し、再びアリスを狙って飛来する。
「(ーーやっぱりかっ!)」
アリスもこの事態はある程度予想していた。
すぐさまその場から飛び退くと、ゲイボルグが勢いよく地に突き刺さった。
「ーー見事な回避・・・と言いたいところだが」
ジャンヌの右手、開いた掌をまるでなにかを握りつぶすように閉じた。
ーーその瞬間。
ゲイボルグを中心に放たれた衝撃波がアリスを襲った。
これにはさしものアリスも反応が間に合わず、まともにそれを受けてしまう。
アリスが羽織っていたマントがまるでなますに切り刻まれたかのように激しい損傷を受け、同時に露出していた顔を始めとした皮膚を切り刻む。
その後に来た衝撃波がとどめとアリスの身体を強く吹き飛ばし、成す術なくアリスは地を転がった。
「ーー『咆龍衝』。
ゲイボルグを覆っていた私の『気』を衝撃波として拡散させ、お前の身体を切り裂いた。
紙一重でゲイボルグの一撃をかわしても、これからは逃れられん」
突き刺さったゲイボルグの周りの地もまた、その衝撃波のあおりを受けて、激しく抉りとられていた。
だがゲイボルグを覆っていた光は消えていて、ジャンヌの言うように『気』を拡散させた時、同時にその光も失われたのだろう。
するとジャンヌは右手で何かを引き寄せるように動かすと、ゲイボルグはひとりでに地から抜け出し、宙を飛来してジャンヌの手元に舞い戻る。
そしてジャンヌに握られるや、ゲイボルグは再び白い輝きに包まれた。