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「なるほど、自然に傷が治癒するとは中々厄介な力だな。
だが・・・一気にその命を断てば話は別だろう」
ゲイボルグの切っ先を再びアリスに向けるジャンヌ。
傷が自然に治るという特性をジャンヌはあっさりそうと信じた。
普通ならばそんな奇跡のような力は疑りそうなものだが、現実的に目の前に起きていることを、ありのままとしてジャンヌは受け入れたようである。
「その武器の秘密を教えてくれた返礼として、面白いものを見せてやろう」
「あたしにとっては、あまり面白くなさそうですけどね・・・」
ジャンヌの言葉に、冗談混じりの言葉を返すアリス。
一見、余裕があるように見えて、彼女は漂うような嫌な予感を感じている。
だが相手に動いてもらう、という方針であるアリスはジャンヌの動きを見極めるまでは敢えて動かない。
ーージャンヌは不可思議な呼吸を始めた。
離れたアリスにも聞こえるような息遣い、深呼吸とは違う意志の感じる呼吸。
するとそれを見た兵たちがまたざわめき、どよめくのがアリスの眼に映った。
一体、これから何が始まるというのか。
それを見守るのはほんの十、二十秒程度のものだったろうか、ジャンヌに遂に変化が顕れる。
一瞬、アリスは目の錯覚を疑った。
ーージャンヌの身体を覆うような、白く輝く光が発せられたのである。
「ーー見えるだろう?
これが私の生命エネルギーの結晶、すなわち『気』だ」
「『気』・・・?」
「人ならば誰しもが持ちうる、生きるための活力。
それを最大限に活用し、『気』としてそのエネルギーを自在に操る。
これこそが『気功術』というものだ」
アリスには聞き覚えがあった。
昔、生前の祖母・マーサが聞かせてくれた話。
人間は目に見える物を操ることだけが能ではない。
普段は眠らせている己の力、それを自在に操ることで力と為す技があるとーー。
その例として聞かせてくれたのがジャンヌも口にした『気功術』というものだった。
「私の『気』が限りなく充実すると、空気中の物質と反応しこうして白く輝く光となって見えるようになる。
本来は戦いながら徐々に充実させていくものだが・・・独自の『呼吸法』を用いることで短時間でこの状態にすることも可能だ」
『呼吸法』ーー。
さっきのジャンヌの独特の呼吸法がそうだろうか。
だがそれを真似したところで誰にも出来るはずもないのだろう。
ーー白く輝く光、『気』。
話を聞いたことがあるとはいえ、あれを用いてどんな戦術が生まれるのか。
固唾を飲んで見守る中、やがて白い輝きがゲイボルグ、ガ・ジャルグにも覆うようになると、ジャンヌはゲイボルグから手を離した。