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「くっ・・・!」
あり得ない動きを見せたジャンヌの盾に、アリスの顔が悔しさに歪む。
ゲイボルグもそうだった。
彼女の意志に従うような動きを見せ、自分の背中を切り裂いた。
ジャンヌの持つ槍と盾、ゲイボルグとガ・ジャルグ。
あるいはこの二つはジャンヌの思うように動く特殊な武器・防具だと言うのか。
アリスはそのまま後ろに押される力に流されるように、緩やかに空を舞いながら着地する。
先に着地していたジャンヌはまた右手にゲイボルグ、左手にガ・ジャルグを携えて、アリスをじっと見据えていた。
「ーー捉えたと思ったのだがな。
大した機転だ。
ジェーンの血を侮れば、己が身に災厄を招くーーということか」
捉えたーー。
そう思ったのはアリスも同じだった。
互いの切っ先と切っ先を合わせるあの防御。
あれはアリスの咄嗟の賭けだった。
失敗すれば串刺し。
だが成功すれば効果的な反撃を見越しての命懸けの賭けである。
しかしその決死の策もジャンヌは防いでしまった。
やはりジャンヌの『力』の秘密。
それを解かない限りは倒すことはできないかーー。
「ーーそれに・・・不思議だ。
貴様の負っている傷口がみるみる塞がっていくように見える」
アリスはどんな状況下でも冷静に物を考えられる人間だが、ジャンヌもまたそうである。
ジャンヌはいつの間にかアリスの額の傷が完全に塞がっている事に気付いたのだ。
ジャンヌの側からは見えないだろうが、既に背中の傷も血が止まり、塞がりつつある。
「・・・このティアマトーの不思議な力ですよ」
「その武器の不思議な力・・・?」
「ティアマトーはあたしの身体を癒してくれるの。
つまりどんなに深手を負っても、時間さえ掛ければ元通りに治っちゃうのよ」
「ほぅ・・・」
「ま、ティアマトーの不思議な力についてはあたしもよく知らないんだけど、ね。
あたしはただおばあちゃんが教えてくれた通りにこの武器を使ってるだけだから」
本来なら今の情報は教えなくてもいい事実である。
だがアリスはそれを駆け引きの材料に使おうと考えた。
傷が塞がる力。
時間を掛ければアリスの傷はどんどん治療されてしまう。
それを知ったジャンヌが、一気に勝負をつけようと自分から仕掛けてくるかもしれないーー。
そしてそこにこそ、自分が付け入る隙があるかもしれない、と。
さっきの交錯を思い出せばこその、アリスの判断だった。