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ーーそんなアリスの動きに、再びジャンヌは凄まじい猛りを上げる。
震える空気。
それを肌全体で感じるや、アリスの身体はまた見えない壁に激突したように空中で動きを止めた。
「ぐっ・・・!」
今までに味わったことのない感覚。
完全に勢いを殺されたアリスはその場で落下運動を始めた。
それで終わらず、ジャンヌは更に行動に移っている。
まるで何かを引き寄せるように右手を強く後方へ引いたのだ。
その動きの意味がアリスには分からなかったが、着地寸前でその意味に気付かされる。
ーー後方で鳴った岩が崩れる音。
そのすぐ後に風を切るような音がアリスの鼓膜を震わせたのだ。
まさか、という思いを抱きながらも、アリスは己の反射神経に身を委ね、咄嗟にまだ着地していない身体を捻らせた。
ーーそれがアリスの命を救う。
後方から飛来したジャンヌの槍が、アリスの背中の皮膚を裂く。
走る痛み。
また無理矢理な回避行動にアリスは全く受け身も取れず、地に身体を強く打ち付けた挙げ句、横に転がる。
飛来した槍はジャンヌの右手に吸い込まれるように移動し、再びそれを握り込んだ。
「ーーお姉様ぁ!」
リリィのアリスを案じる、叫ぶような声が周囲の壁ににこだまして響き渡る。
アリスはうつ伏せに地を握りしめるようにしながら、顔を起き上がらせてジャンヌを見上げる。
「な・・・なんなの、今のはーー?」
「大した反射神経だ。
それがなければお前の身体は我が槍・『ゲイボルグ』に串刺しにされていただろうに」
地に伏せるアリスに、ジャンヌは見下ろしながらも賞賛、とも取れる言葉を発する。
壁に突き刺さったはずのそれが、ジャンヌの手の動きに合わせて、意思を持ったようにアリスへ向かって飛来した槍・『ゲイボルグ』。
確かにあのアリスの咄嗟の行動がなければ、ジャンヌの言うように背中から胸を貫かれていただろう。
とはいえ避けきれてはおらず、マント、そしてタンクトップの布と共に抉りとられた背中。
患部からは鮮血が流れ、マントを赤く染めていく。
「ーーだが、その程度か?アリス・ジェーン・カナリー。
私の眼に映るお前の姿は既に満身創痍、といった様相だがーー。
それともジェーンの血の力とやらは、その程度でしかないのか?」
見下ろす威圧的な視線。
アリスはその視線を受けながら、何とか身体を立ち上がらせる。
激しく繰り返す呼吸に、傷付いた患部、そして節々の痛み。
確かにジャンヌの言うように、アリスは既に満身創痍の状態に見える。
だがそんな中でもアリスの思考はジャンヌの持つ『力』を必死に探ろうとしていた。