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「(人をすくませるような強い威圧ーー。
でも多分、それだけじゃない。
本質的な力はきっと別にあるーー?)」
猛らせた声、視線による威圧。
それはその『本質』を発動させるための材料でしかないーーアリスはそう読んだ。
だがそれが何なのかまではこの短時間では分からない。
「ーーさすが、ジェーンの血を引く者、と言っておこう。
あっさりと私の背後を取るとは、な」
一歩、踏み出すジャンヌ。
アリスは思考を一端中断して、身体を起こし額から流れる血を腕で拭うと、
ティアマトーを横向きに顔の前に構えて、ジャンヌの動きに備える。
「ーーどうした、来ないのか?」
一歩、一歩とゆっくり距離を縮めてくるジャンヌに、アリスは後ずさる。
ジャンヌの持つ未知の能力。
その全容はおろか、形さえも掴めないアリスは攻める事が出来ないでいた。
「来ないのなら、こちらから行かせてもらおう」
動けず後ずさるだけのアリスに対して、ジャンヌがその意思を見せる。
鋭い切っ先に赤い球体状の宝石が一つ、装飾として施されたジャンヌの持つ槍。
それを持つ右手側を身体ごと大きく後方へと引き、やや中腰の姿勢で力を溜めるように構える。
それを見たアリスは槍を先端に、身体全体でこちらに突っ込んでくるつもりだと読み、それを避けた上での反撃を思案に巡らせていた。
「ーー『龍槍撃』っ!」
しかしアリスの予想は外れる。
ジャンヌが何らかの技のような名前を叫ぶと、引いていた右手側を一気に前に踏み出しながら、持っていた槍をアリスに向かって直線的に投げつけたのだ。
「(武器を投げたーーっ?!)」
たった一つの武器であろう槍を投げるとは予想していなかったアリスは驚きに目を見開くが、
元々突攻を予想して構えていただけに、凄まじい勢いと速さで投擲された槍に動じることもなく、左に飛んで体をかわす。
投げられた槍は勢いを失うことなく、数メートル先の壁へ抉るように深く突き刺さり、岩が砕け散る音を強く響かせながら破片が舞う。
「(えーい、ままよっ!)」
ジャンヌの不思議な力の解明は為されていない。
だが武器を手放したこの瞬間を見逃すわけにはいかない、とアリスは意を決して打って出る。
左に飛んだ身体を横に一回転して受け身を取り、体を安定させるやジャンヌに向かって足を駆け出させる。
そして自分の方に向きなおったジャンヌに対し、距離を詰めたアリスは地を蹴って高く飛び上がり、上から攻撃を仕掛けようとする。