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元々隠れる場所などなく、坑道側から広場内部を見つからないように窺うことなどできない。
ならば、とアリスは一気にその広場へと躍り出る。
リリィがその背中に続いた。
そこはやはり巨大な採掘所であった。
今までの坑道からは考えられないような広さ。
直径二十メートルはある円形のドームともいえ、天井までも優に十メートル以上はある。
周りには採掘用に高台へ昇る、木製の足場が造られており、また採掘した鉱物を入れた箱や、荷車もある。
少し前までは盛んに採掘が行われていたーーそんな名残を感じさせる広場だ。
その広場の中心にーー彼女はいた。
すなわち・・・『ベガルタの剣』。
星頂人中では軍神と誉れ高い、ジャンヌ・フォン・ベガルタそのひとである。
その後方には一人のやや年季の入った兵の姿。
恐らくジャンヌの副官だろうと、アリスは予測する。
するとアリスはジャンヌを一瞥したあと、視線の動きだけで周りを見渡す。
離れた位置に前後左右、そして高台に配置された星頂守護機関の兵隊。
手に持つ銃がアリスたちに狙いを定めている。
四方八方からの銃口にリリィは思わずたじろぐようにしてアリスの背中に付いた。
これではまさに袋のネズミではないか、と。
だが銃は構えているだけで、撃ち方に入っていないことはアリスの目が見抜いている。
そしてそれはジャンヌの作為である、ということも。
「ーーリリィ、下がってて」
「お姉様・・・」
リリィのその場所に置いてアリスが一人で前に出る。
こちらを鋭く見据えるジャンヌ。
凄まじい攻撃的な威圧を感じながらアリスはジャンヌと向かい合いながらその距離を縮めた。
「ーー止まれ」
ジャンヌの声にアリスは足を止める。
二人の距離はおよそ二、三メートル。
白いワンピースのドレスに白銀の軽装甲、巨大な盾と一体化した槍を軽々と右手一本に持つ軍神は、この距離を二人の間合いと定めた。
「大した度胸だ。
一人で追ってくるとはな」
アリスはリリィと二人でこの場所に到ったのだが、ジャンヌの視線はアリスしか捉えていない。
「そちらこそ。
わざわざのお出迎え、ありがとう、とでも言いましょうか?」
挑発的な笑みを浮かべるアリス。
対してジャンヌの表情に変化はない。
「一応・・・聞いておこうか。
何の目的で私を追ってきた?」
「ーー同じ、だと思いますよ?」
「『黒い刃を持つ女』・・・か?」
ジャンヌの問い掛けにアリスは視線を反らさずに頷いた。