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ーーそうして二人は坑道の中をゆっくりと進んでいく。
アリスは先の不意打ちを踏まえて、より周囲を警戒するようになった。
クリークは去ったようだが、そう思わせて不意打ちを狙う罠とも考えられる。
だが時間を取られてしまったのも事実であり、先を行くジャンヌたちのこと、またアリスの仕掛けた罠に戸惑っているだろうとはいえ、後からの追手も気にする必要がある。
ーーそれにしても、この坑道に入った時から考えればだいぶ歩いたはずである。
一本道だから迷うことはないとはいえ、内部地図も持たないアリスには、この先がどうなっているのか、気になり始めていた。
「それにしても驚きましたぁ、まさかアリスさんがあのカラミティ・ジェーンの子孫だったなんて」
そんな中でもリリィはアリスに気さくに話しかけていた。
自分が緊張を張り巡らせているとはいえ、呑気に世間話に乗じようとするリリィに、アリスは危機感を抱かずにはいられない。
「そんなことより、リリィはもう大丈夫なの?」
「何がですかぁ?」
「ほら、あんた・・・さっき、人を初めて殺してーー」
「ああ、お姉様のお陰でもう大丈夫ですぅ!
ありがとうございました、お姉様!」
心配するアリスに、リリィは明るい笑顔を見せながら側に寄ってくる。
頭の上に花でも見えそうな程の、リリィの高調子振りに、アリスはただただ先行きの不安を案じていた。
ーーとはいえ、自分に心配させないための空元気、という可能性もある。
リリィも追われる身になり、何よりそうしてしまったのには自分に責任がある。
面倒が見れる内はしっかり見なくてはーーアリスはそんな使命感すら心に決めていた。
「あれ・・・お姉様?
見てください、あそこ!」
「え?」
僅かの間だが物思いに耽っていたアリスより先に、リリィがそれに気がついた。
リリィが指差した正面の先。
そこにはここより明るい光が漏れていたのだ。
光の色は周りのランプの光と酷似しており、恐らく沢山のその光が集束して成した光であろう、とアリスは推測する。
「(多分・・・広い場所、この鉱山の採掘所か何かに出ようとしてるのかもね)」
周りのランプと同じ色の光でありながら、強い光。
すなわちその先には大量の同じ光を発する光源があるはずであり、
そうするからには少なくともこの坑道よりは広い場所、
ここが鉱山であることも加味すると、採掘所を照らす光であろう、とアリスは読む。
その光を目指して進むアリス。
やがてその内部が見えようという位置まで移動したとき、アリスは『強烈な気配』を感じ取った。
まるで覆い隠すということを知らない、まさに自分はそこにいるのだ、と自ら知らせるような巨大な気配。
「この気配は・・・あの時のーー」
アリスには覚えがあった。
すなわちブルーツ・タウンで初めて会った時に、発せられた強い気配。
尾行している間は感じなかったが、今、こうして発せられる気配は明らかに自分という存在を認識した上で、それを追い返そうとする強いものである。
すなわち、その気配とはーー。