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「そして『ベガルタの剣』・・・あの人もセット・エトワールーー」
クリークは言っていた。
あなたでは勝てないだろう、と。
その言葉にはクリークのジャンヌに対する畏怖、そしてジャンヌ・フォン・ベガルタという絶対的な存在たる『自信』が感じられた。
セット・エトワールというのがどのくらいの規模の存在なのかは想像できるはずもないが、
少なくともジャンヌを見る限り、数百の兵を一手に与ることのできる存在である。
またアリスは予感していた。
恐らく彼女は自分の道の前に立ち塞がる最強の壁になる、と。
「お姉様・・・」
リリィがアリスの肩に手を置き、案じるような表情を向ける。
アリスの神妙な表情に、感ずるものがあったか。
「ーー分かったでしょ、リリィ。
あたしは『災厄を招く者』。
あたしに関われば、あなたもその災厄に呑まれる。
あなたまであのセット・エトワール、っていう連中に追われることになりかねないのよ?」
「あ・・・う」
「あたしを助けてくれた事には感謝してる。
でも今ならまだ遅くない。
あたしから離れたほうがいい。
それがあなたのためよ」
リリィに忠告するアリス。
リリィも今ならその言葉の意味が少しは分かるのだろう。
そしてアリスが抱えるものの重みもーー。
リリィは俯きながら答えに悩んでいる様子を見せていたが、やがてアリスに決断の眼差しを向ける。
「ーーううん、やっぱり私もお姉様に付いていく!
お姉様一人でなんて行かせられないから!」
強気を演じたリリィだが、その声は震えている。
「リリィ、あなたは星頂人なのよ?
そのあなたが開拓民なんかに肩入れなんてしたらただじゃ済まないの。
それぐらい分かるでしょう?」
「わ、私はもう没落した身です。
星頂人であることなんかに何の未練もないですっ!」
「で、でもあなたにだってお姉さんを探すって、目的があるんでしょ?
それなのにあたしなんかに関わってどうする気なのよ?」
「でも・・・でも、今はお姉様の力になりたいんです!
このまま見なかった振り・・・知らない振りして去るなんて、私はしたくありません!
そんな事したら・・・私、絶対後悔するからっ!」
乗り掛かった舟ーーそんな言葉があるが、リリィはまだ降りられるのである。
なのに何故敢えて嵐を行く舟と知りながら乗ろうとするのか。
アリスには全く理解できなかった。
「それに・・・私ももう、星頂守護機関から追われる身です」
するとリリィはふとマルガリータの亡骸を見ながら言った。
星頂守護機関に属し、セット・エトワールの一員であるというマルガリータを撃ち殺したのはリリィである。
アリスははっとした。