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「ですけど何度も言うように、それを持っている限り、
あなたは僕たちに狙われ続けますよ。
それに、ですよ?」
「・・・何よ」
「いくらあなたでも・・・ジャンヌさんには勝てないですよ」
何歩か身を引きながら語ったその言葉を、アリスは否定も肯定もせず、ゆっくりとティアマトーを下ろす。
「このまま先に進めばいずれジャンヌさんとは一戦交えることになります。
あなたもそれは分かってるんでしょう?」
「ーーまぁ、戦いを避けて目的を果たせればベストだけど・・・そうはさせてくれないでしょうね」
「目的が同じなら共闘する方がいいと思いますけど」
「その選択肢がないわけじゃない。
ただあんたの条件じゃ受けられないわ。
それにーー」
そこまで話して、一度目を閉じ、固唾を飲み込むアリス。
リリィとクリークがアリスを一点に見つめる中、閉じた目が見開かれた。
「ーー奴は・・・あたしが倒す。
あたしが終わらせなくちゃいけないの」
不動の決意。
その決意を果たすため、こうして退路なき道を行く。
その道を塞ぐ者は誰であろうと伏せて越えていくのみ。
ティアマトーを握る手に自然と強く力が込められた。
「あはは・・・頑固なお方だ。
ある意味ではあなたとジャンヌさんは似ているのかもしれませんね。
それならばこれ以上の説得は無意味、ですか」
そういい放つやクリークは後方に飛び退き、暗がりにその姿を溶け込ませる。
アリスは追うように一歩、足を踏み出させるが、それ以上追うことはなかった。
「(気配が・・・消えた?)」
追わなかった理由はクリークの気配が一瞬にして掻き消えたからである。
この場から逃げ去ったにしても、瞬間的にその気配が消えたのにはアリスも内心納得がいかない思いだった。
『また会いましょう、アリス・ジェーン・カナリー。
次、会うときは出来れば敵ではなく味方として会えることをお祈りしています』
そうして聞こえてきた声。
明らかにそう離れていない声の大きさだが、やはりアリスにはクリークの気配が捉えられない。
まだ見ぬクリークの不気味な能力ーーそれをアリスは垣間見た思いだった。
「セット・エトワール・・・か。
確かに出来れば敵に回したくない相手ね」
クリークが消えた暗がりから目を逸らし、マルガリータの亡骸を見ながらアリスは呟いた。
確かにリリィが駆けつけてくれなければ、自分はあのまま殺されていただろう。
ティアマトーを持つ限り、これからも狙われる事になるーーそう考えると不吉な思いを感じずにはいられなかった。