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「ただし、これはちょっと虫の良いお願いなのですがーー」
「・・・言って」
「もし事が万事上手く運んだら、あなたが持っているその白銀の銃剣・・・。
それを我々、星頂守護機関に預けて頂けませんか?」
「ティアマトーを?」
「はい。
漆黒・白銀の両武器を手にいれることも僕たちの仕事でして」
「・・・どういうこと?
この武器はあたしたちジェーンの血を持つ者にしか使えないはずよ?」
「そうみたいですね。
まぁ、僕たちも命令されてやっているだけですから」
淡々と語るクリークに対し、アリスは僅かだが思案を巡らせる時間を設けながら会話する。
突如現れて、突如切り出された共闘。
アリスが警戒を抱くのは当然である。
「その提案・・・断ったらどうするの?」
「その場合は仕方ありませんね。
・・・『実力行使』でその白銀の銃剣を頂きます」
「なるほどね、分かりやすいじゃない」
「まぁ、僕も出来ればそんなことはしたくありませんし。
それにあなたのためにもここは歩み寄った方がいいと思うのですがーー」
「へー、あたしのためにも?」
「あなたにとっても、『奴』を討つことは悲願の筈でしょう?
そして言ってしまえば、それを果たせばその武器も必要ないでしょう」
肩をすくませながらやはり変わらぬペースで語るクリーク。
だが『実力行使』と口走った時の、彼から一瞬発せられた殺気をアリスは見逃してはいない。
そして恐らくクリークも自分に懸命な判断を臨むべく、わざとやったのだ、と見抜いてもいた。
すなわち会話の中から垣間見えるクリークの内にある狡猾、そして残忍さーー。
多分彼は人を殺すときも、笑顔でやってのけるのではないかーーと。
その笑顔の裏に隠された冷徹なマスクを、肌で感じ取ったのだ。
「それを渡してくれませんと、あなたも『奴』と同じく、僕たちから一生狙われますよ?
逆に渡してさえくれれば、あなたは晴れて自由の身、故郷で穏やかに暮らせるんです」
「・・・穏やかに暮らす、か」
「僕はカラミティ・ジェーンの血を引くあなたに敬意を評して、こうして平和的な解決を提案しているんです。
素直に応じてくれると、面倒が減って助かるのですがーー」
ーーまただ。
笑顔の裏から威圧するような雰囲気をアリスは感じたのだ。
まるでNOと口走った瞬間にやる、とでも言わんばかりである。