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「それで?
あたしに何の用なの?」
「用といいますか、アリスさんに提案があるんです」
「提案?」
「僕たちと・・・手を組みませんか?」
突然の協力の申し込み。
だがそう言われても何に対する協力なのかが、アリスにはすぐに理解出来ない。
「実はあなたが尾行していたジャンヌさん。
あの人もセット・エトワールの一員でして」
「あの人も?」
「はい。
そしてジャンヌさんもあなたも、詰まるところ目的は同じ。
それならばいっそ二人で共闘して頂けませんか、という事です」
「共闘・・・」
「『黒い刃を持つ女』を討伐することは僕たちに与えられた大事な任務の一つですからね。
あのカラミティ・ジェーンの血を受け継ぎ、さらにその白銀の銃剣を受け継いだあなたの力が借りられれば申し分ないと思いましてね。
アリス・ジェーン・カナリーさん?」
笑顔のまま語ったその内容にリリィが驚きの声を上げた。
「あ、アリスお姉様が・・・あのカラミティ・ジェーンのーー?」
まさか、という表情のリリィに応えず、アリスはクリークに厳しい視線を送り続ける。
「ーーなるほど、あたしのこともこの武器についても、全部知ってるってわけ」
「僕は情報収集を主な仕事としてましてねぇ。
ある時は宝石商にでも何にでも化けて、世界中で情報を集めて・・・不穏な異分子を監視している立場でもあります」
「あたしもずっとあんたに監視されてた、ってわけ」
「いやぁ、こういう仕事をしてますと、潜入屋とか密告屋とか色々言われるんですよね~。
全く因果な仕事を任されたものですよ」
また笑い声を上げるクリーク。
この余裕の態度、そして不気味な彼のペースに呑まれないように、アリスは常に緊張を保ち続けた。
「先を続けて。
あたしに協力しろって?」
「ええ。
あなたとジャンヌさんが手を組んでくれればまさに千人力。
まぁ、ジャンヌさんはああいう性格ですから、中々首を縦には振らないでしょうが・・・そこは何とかねじ込みます」
「・・・」
「もちろんタダで、とは言いませんよ。
充分にお礼はさせて頂きますし、
あとアスピーク・タウンでの一件ーーあれも自分が責任を以てもみ消しましょう」
「そんなこと言って良いわけ?」
「ギブアンドテイク、ってやつですよ。
それにあの一件は金を不法に搾取しようとした、僕たちの同胞に責任がありますからね」
協力というよりは一種の取引か。
考えるようなアリスに対し、事情が全く呑み込めないリリィはただアリスとクリークを交互に見遣るだけだ。