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「お前、本当ならさっき死んでるんだぜ。
脳天に穴が空いてないその幸運をせいぜい大事にするんだな」
「な、何言ってやがんだ・・・」
「それだけじゃねぇ。
よく考えたらあの中途半端な決闘方法といい、
俺たちはあの嬢ちゃんの『気まぐれ』で生かされてるんだ」
震えた口調で話すデック。
一体、彼が何を恐れているのか、
そして彼が何を言わんとしているのか。
バイスにはいまいちそれが掴めていないようだが、
とにかくデックが何かに強い恐れを抱いているのは確かだ。
手がかりは明かされた女の名前。
アリス・・・『ジェーン・カナリー』。
この部分を聞いて、デックの様子が急変したのだ。
しかしその名前が何故恐怖の対象となったのか、
『無知』であるバイスには知る由もなかった。
そしてふとアリスの方角を見遣ると、その影は既にかなり小さくなっていた。
肩に傷を負っていては追うこともままならず。
バイスは釈然としない気持ちと悔しさを、
舌打ちによって紛らすしかなかった。