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アリスの祈りをつんざくような轟音が制止させる。
驚きに閉じた目を開放すると、自分を殺そうとする暗殺者が傍らに倒れ付した。
ーー何が起きたのか?
冷静なアリスも全く状況が把握できない。
しかし爆動する鼓動もすぐに収まり、暗殺者・マルガリータが地面に伏したまま動かなくなったのを見て、助かったのだと自分を納得する。
そして冷静さを少しずつ取り戻し、先の轟音が聞き慣れた銃声だと理解に至った。
そしてアリスは痺れた身体を渾身の力でわずかずつ動かし、背後に視線を持っていく。
するとそこにはーー。
「お、お姉様・・・」
「り、リリィっ!」
震える足と腰、そして両手で拳銃を握るリリィの姿があった。
アリスと目が合ったリリィはそのまま膝を折ってへたりこんでしまう。
「あ、あんた、どうやって・・・ここ、に・・・いや、そんな、ことより・・・」
呆然と遠くを見ながら震えるリリィにアリスは何とか近寄ろうとするがやはり身体は動いてくれない。
代わりに何とか動く口でリリィに語りかける。
「人、初めて、撃ったんでしょ・・・っ!」
アリスがそう投げ掛けると、リリィはようやく頷くことで反応を示した。
「お姉様が・・・殺されそうになってたから・・・私、夢中でーー」
手に持っていた銃を落とし、地を転がる。
同時に自然と流れ出した涙が頬を伝う。
リリィはそれを拭おうともせず、まるで金縛りにあったかのように身体を震わせるだけだ。
「り、リリィ、こっちを・・・向いて。
あ、あたしを、見なさい・・・」
アリスが更に投げ掛け続ける。
本当は喋るのも辛いが、リリィをこのままにはしておけない、というアリスの意志だ。
それが通じたかようやくリリィはアリスを見た。
「ごめ・・・んね、あたしのせいでーー。
でも、ありが、とう・・・。
リリィ、のおかげで、助かった・・・わ」
「お姉様・・・」
必死にその言葉を伝えたアリスを見て、リリィはようやく還ったかのように震えが止まった。
そして次の瞬間、感情を一気に溢れ出させたリリィはアリスの身体に飛び込んだ。
「お姉様ぁ・・・お姉様ぁ・・・!」
理由はどうあれ、人を殺してしまった事に強い悲しみを抱く。
そんなリリィの人間らしい心を、アリスは身体は動かないまでも、優しく受け止めた。
例え相手がどんなに憎い相手だとしても、やはり自分が撃ち出した銃弾で相手を殺すということは、気持ちに深い影を落とすことになる。
ましてそれが初めて、となればなおさらの事だ。
アリスも覚えがあるのだろう、リリィの気持ちが良く分かってあげられたのだ。