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「確かこの先に大きく開けた発掘場があったな」
「あ、はい・・・確かに」
ジャンヌに聞かれて副官がすぐに部下とこの鉱山の内面図を見ながらそれを確認する。
「そこで追手を迎え撃つ」
ジャンヌはそう告げた。
内面図によればその発掘場はかなりの規模を持っている。
そこならばこちらも動きやすく、点在している灯りをすべて消されて闇に沈む危険性も少ない。
何よりもジャンヌ自身、『己の力を存分に振るう』のにある程度の広さを求めていた。
この狭い通路では仲間を巻き込む可能性がある、とジャンヌは危惧していたのだ。
「この事は後続には伝えるな。
奴が通信機を奪っている以上、余計なお喋りは相手に情報を伝えるだけだ。
ただ無理に追わず、細心の注意を払って進め、とだけ伝えろ」
「了解しました」
ジャンヌの言葉に従い、副官がそれを実行する。
そんな中でジャンヌは自然と昂る気持ちを押さえるように、胸に手を当てながら前に進む。
「・・・本命を前に、前哨戦、余興といったところか。
肩慣らしには丁度良い相手かもしれないな」
自分が戦いやすい場所に誘き寄せ、撃退するという判断を下したジャンヌ。
常日頃から臨戦態勢でいる彼女の内に秘めた熱い部分が更に昂る。
何故ならばこれから自分が戦うだろう、二人の人間はあの『伝説の女傑』の血を引く者、と確信していたからである。
負けるわけにはいかない、という思いが半分と、
星頂人が忌まわしき血、と恐れる者たちに自ら制裁を加える事が出来ることに、ジャンヌはある種の幸運すら感じていたのだった。
しかし彼女は知らない。
彼女が迎え撃つ場所、と指定した場所が、
その実、黒い獣が狩り場として既に待ち受けているということに。