P153
4
ーーその頃、先を行くジャンヌの部隊は後方の異常に気が付き始めていた。
通信ではどうやら自分たちを追ってくる者がいるらしい、との事である。
らしい、というのはその動向をはっきり見た者がいないからだ。
ただ坑道内の灯りであるランプが入り口から奥に向かって消されているということから、ほぼ間違いないだろうという。
更に、ランプを再点灯しようと火を点けると発動するように仕掛けられていたトラップーー。
強烈な光を発する火薬により、目を眩ます仕掛けだ。
懐中電灯を用いて進めなくはないものの、全容を見渡せない暗闇の中、罠を仕込むような敵相手に迂闊には進むことは出来ない。
ただ気絶していた入り口の見張りの話によると、相手は帽子とマントを羽織った女であるという。
それを聞いたジャンヌは不敵な笑みを見せた。
「ーーふふ・・・あの時の。
やはりさっき感じた気配は気のせいではなかったな」
ジャンヌは覚えていた。
ブルーツ・タウンですれ違ったただならぬ雰囲気を秘めたあの女のことを。
格好も確か帽子にマントを羽織っていた。
そして部下の話によるただ者ならぬ追手の特徴。
ジャンヌは追手はその者に間違いないと確信した。
「(ただの賞金稼ぎ、という雰囲気でもなかった・・・。
だとするならーー)」
ジャンヌは前を見据えて歩きながら追手の正体を推理していた。
敵は恐らく一人。
何故ならジャンヌが山林で感じた気配は一つだったからである。
そしてたった一人で自分の部隊を撹乱し、そして気づかれずに見張りを撃退する力量の持ち主。
ジャンヌはますますあるもう一つの予感を深めつつあった。
それはクリークが自分に聞かせてくれた話であるーー。
と、そこまで思案を深めて、副官グレッグスに声を掛けられた。
これから『黒い刃を持つ女』を討伐しようというのに、背後に不気味な存在を残しては危険であり、引き返すべきではないか、と。
それは確かに懸命な判断である。
今、引き返せば、後続の兵と併せて敵を挟み撃ちに出来よう。
ーーだが、ジャンヌはある懸念があった。
相手だって今、副官が言った事ぐらいは予測しているはずであり、何よりも問題はこの通路の狭さ、そして暗さである。
もし灯りを消されれば通路は闇となり、いかに数で勝っているとはいえ、その有利さを活かせない可能性がある。
暗闇の中で混乱にでもなれば最後、無用の被害を招いた挙げ句、逃げられてしまう可能性すらある。
ならば、とジャンヌはある決断を下した。