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さらにこの時、アリスはランプに『ある細工』を施した。
アリスが町で事前に準備しておいたものである。
他に用途があったのだが、アリスはここでそれを使用した。
「(よし・・・これで、追手も簡単には追ってこられなーー)」
後ろを気にしつつ、前に進んでいたが、そのせいで不意に何かに足を取られそうになる。
ーー柔らかい感触。
アリスはそこにあったものを見て、驚きこそしなかったものの、表情が一気に険しくなる。
「(あの町の鉱夫さん・・・か。
これも奴の仕業かーー)」
ランプの灯りだけが頼りの暗がりの道。
そこに突っ伏していたのは男の惨殺死体。
かなり時が経っているのが素人にも見て取れ、刃物による生々しい傷痕は見る者によっては吐き気を催すだろう。
「(ヴァージニス・・・っ!)」
星頂守護機関が意味もなくこんな事をするはずがないとすれば、やったのは恐らくここに潜む邪悪な殺戮者。
『黒い刃を持つ女』に違いないーー。
アリスも良いようのないその黒い気配を、肌に痺れるかのように強く感じ取っているようだ。
アリスは無関係な人間がこうも無惨に殺され、捨てられているのを見て怒りをあらわにする。
「(今日で・・・終わりにしてやる。
もう二度と災厄を振り撒かせはしない・・・っ!)」
手を強く握りしめ、心の中で決意を強く奮い立たせる。
ーーもう少し、あと少しの距離まで自分は近付いているはず。
同じ血を引くーー、いや自らの血を『子』として産み落とした『母』との再会。
その邂逅の時に何を生むのか、そして失うのか。
狂乱に溺れ、血に飢えた悪魔と化した『同じ血』に自分はどんな形で終わりをもたらすのか。
ーーアリスだけが知るその答え。
「おばあちゃん・・・。
ーーおじいちゃん。
あたしを見守っててーーっ」
それを為すためにアリスは更に前へと進む。
彼女の長い旅、その終焉が近づこうとしていた。