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「ふぅ・・・気づかれてないかな?」
見張りをあっという間に打ち倒したアリスは周囲を見回す。
ここに来るまでにも見張りはいたが、距離が離れているおかげかどうやら気付かれてはいないようだ。
だが打ち倒した兵隊の持ち物から人の声のようなものが聞こえてくることにアリスは気付く。
音の正体を知るべく、気絶した者の身体をまさぐると、細い触覚のようなものがついた長方形の形をした器械が出てきた。
そこから声が聞こえる。
『ブレイバー1、こちらブレイバー4。
状況を知らせよ、どうぞ』
「(へーっ、これが通信機ってやつか・・・)」
アリスが手に持ったのは無線通信機。
見慣れてないアリスは不思議そうにそれを眺める。
『ブレイバー1、どうした。状況を知らせよ、どうぞ』
「(う~ん、何か答えないとまずいかなぁ)」
ここでなにも答えないと、それを不審に思い、見張りが集まってくるかもしれない。
とはいえ、四人全員が気絶したから、銃で脅すなりして返答させることも出来ない。
そこでアリスは仕方なしに鼻をつまんで通信機に口を近づけた。
「え、えー、こちらブレイバー1、異常なし、異常なし、どうぞ」
『・・・』
鼻をつまんだ妙な声で自ら返答したアリス。
通信機の向こう側にいるであろう人間はそれを聞いて黙ってしまう。
「(だ・・・ダメかな)」
『・・・了解、ブレイバー1。
引き続き状況を継続せよ』
「(ほっ・・・た、多分、大丈夫かな)」
安堵の息を漏らしながらも、アリスはやはり長居は無用、とその場を離れることにする。
ただこの通信機は相手の動きを知ることが出来るかもしれない、とそのまま持参する。
もちろん機器の操作はさすがのアリスも分からないが、とりあえず声が聞こえる内は使えると見た。
「よし・・・じゃ、行こうかな」
アリスもいよいよ坑道内へと踏みいる。
坑道内は天井は高めで、人が二人並んで通れるくらいの道。
両側の壁には油交換式のランプが灯されており、本来暗闇である道を明るく照らし出している。
ところがアリスは進みながら、そのランプの火を一つずつ消していく。
すると進み行くアリスの前は消えていないランプが変わらず道を照らしているが、後ろは光が届く範囲を除いて闇に包まれていく。
アリスは遅かれ早かれ見張りが気絶していることが判明するのは時間の問題と分かっていた。
だから通過したところから灯りを消し、通路を闇に戻すことで、背後からの追手の足を阻んでいるのである。
如何に訓練された兵隊とはいえ、真っ暗な闇を進むのは容易ではなかろうということだ。