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「(この先に・・・奴がいるの・・・っ?!)」
アリスがそう思うや、自然と鼓動が高鳴った。
ーーこの八年は、白銀の銃剣・ティアマトーを手に入れるためと同時に、もう一つの武器、漆黒の銃剣を使って災厄を振り撒く母を探すためでもあった。
遂に、ようやくその時が近づいているのか。
高鳴る鼓動に合わせて、忍ぶように進めていた足に自然と力が入った。
「ーー止まれっ!」
ーーそんなアリスの昂りを感じ取ったように。
銀髪の女傑が吠えた。
突然前を行く部隊が止まるや、ジャンヌが部隊の足を止めさせると後方に下がり、アリスがいる方向を凝視する。
「(ーーしまった、気付かれたっ?!)」
だがジャンヌはアリスがいる方角を見るだけで、それ以上は動いてこない。
アリスは木を背にして隠れながら、敢えて身を退く一歩も、いや指ひとつ動かさず呼吸さえも一時的に押さえ込む。
ここで動けば確実に気付かれるーーアリスはそう確信し、己の全ての動きを絶ったのだ。
ジャンヌは首を振って辺りを見回すことをせず、ただ一点、アリスがいる方だけを見据える。
果たして気づいているのか、否か。
通常ならばそのジャンヌの視線に負け、『気配を作る』か、逃げ出すなどして完全に捕らわれていただろう。
だがアリスは懸命に気配を殺す。
まるで死人、いやこの世の存在であることを否定するように。
ーーやがてもう一人の上官らしき人間がジャンヌに声をかけると、ジャンヌは首を振るような素振りを見せながら、再び前に戻った。
射抜くような視線から解放されたアリスは、肺に溜めた息を静かにゆっくりと吐き出す。
「(あっぶな~・・・っ、やっぱりあの人、ただ者じゃないわ)」
アリスは心の中で安堵しつつも、同時に恐怖した。
他の兵たちが全く気づかないようなアリスの気配をジャンヌは感じとり、いや感じ取りかけたのだ。
一度目だから気のせい、と確かめなかったのだろうが、二度目はないだろう。
アリスは己を戒めつつ、再び細心の注意、そして緊張を持って、ジャンヌの後を追った。
ーーそして入り組んだ山林の道を登ること更に十数分。
部隊は切り立った岩肌の前で止まった。
アリスが遠くから慎重に覗き込むと、どうやらその岩肌に入り口のようなものがある。
恐らく鉱山へと続く坑道の入り口だろう。
前からそこに佇んでいた数人の見張りにジャンヌが話を通しているらしく、やがてそれを終えたジャンヌたちは坑道内へと踏み入った。