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ーー夜が明け、荒野に日が差す。
その時は来た。
ジャンヌは明言通りにおよそ五十人ほどの部下を率いて行動を開始した。
少数だが精鋭で部隊は組まれ、何よりもあの『ベガルタの剣』自ら陣頭指揮を取る。
彼女の絶対たる自信のほどが窺えるようだ。
ただ他にも同じくらいの人数で二、三部隊が別動隊として組まれているようだ。
彼らの役割は分からないが、ジャンヌの部隊が本命であることは間違いない。
「ーー動いたわね」
岩陰に身を隠し、一睡もせずに夜を明かしたアリス。
遠目のきくアリスは肉眼のみで遥か遠くにも見える星頂守護機関の動向を把握していた。
今、人数を備えた部隊が動き出したのを確認、アリスはそれを遠くから追うこととなる。
「ーー良かった、まだ起きてなくて」
傍らでは大きな布生地を布団代わりにくるまって未だ寝ているリリィ。
もし星頂守護機関が動きを見せた段階でリリィが起きなかったら、最初から置いていくつもりだった。
「じゃあね。
お姉さん、見つかるよう祈ってるよ」
穏やかな寝顔を晒すリリィを見て微笑むアリス。
そして物音を立てないように慎重に移動を開始した。
ーーあくまでこの距離を維持したままの移動。
宿営地に残された兵たちの動向にも気を配りながら、岩陰なども利用しながら移動する本隊を尾行する。
やがて宿営地と距離が離れたのを見計らって、徐々に、わずかずつ距離を縮め始めるアリス。
あの『ベガルタの剣』に気付かれないぎりぎりの距離というものをアリスはまるで把握しているかのように、距離を保ちつつ、そして見失わぬように移動。
ーーそして尾行を始めて十分ほど。
本隊は山林を登り始める。
アリスは内心しめた、と思った。
うっそうと生い茂る林、というわけではないが、
それでも遮蔽物が多い分、いくらか尾行はしやすくなる。
また自然に生きる動物や虫たちが自分という存在、気配を覆い隠してくれる。
アリスはこの機に乗じて大胆に距離を詰め、自分も一気に山林内部へと進入した。
ーー明らかに人が通れるように舗装された道を通る本隊。
道には予め見張りとして配備されていた兵たちの姿もある。
それとは裏腹にアリスは山林の草木が生い茂る中を進んでいく。
吹く風が草を揺らし音を立てるーーそんな音に紛れて移動、
まるで自然と一体化したかのようなアリスの動きは、現状悟られてはいない。