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「残るは『白銀の銃剣』か。
確かもう一人の『災厄の血』を持つ人間に渡したのだったな?」
「ええ、僕とランディさんが便宜を計りましてーー」
「ふん・・・回りくどい真似を」
「いえいえ、アーサー隊長の話では二つの銃剣は互いに引き合う性質があるそうです。
そこで今、現在白銀の銃剣を持つアリス・ジェーン・カナリーが、神出鬼没であるもう一人を上手く誘い出してくれればーーという作戦だったのですが・・・なんかそんな必要もなくなりましたね。
こうして今ははっきり居場所が分かっていることですし」
「引き合う性質・・・か」
そこまで話してふとジャンヌが何かを考え込むように視線を空に泳がせた。
「まさか・・・な」
「どうしたんですか、ジャンヌさん」
「いや・・・恐らく気のせいだろう」
自己完結するように頷くジャンヌに頷くのを見て、クリークは首を傾げる。
「それよりもジャンヌさん、もう一つの指令については何も思わないんですか?」
「何故だ?」
「ほら、内容がアレなんで・・・ランディさんやフラムベルグさんなんて、怒り出す始末でして」
「私はアーサー隊長の右腕であり、元老院の忠実な僕だ。
よってその命令に疑問や疑念など持ちはしない」
「そうですか・・・」
平然とそう言ってのけたジャンヌ。
クリークもやはり笑顔のまま表情を崩したりはしない。
「さて、用が済んだのならもう帰れ。
私は明日に向けて、部下と最終調整をせねばならぬからな」
「つれないですね~、折角はるばるここまで来たんですから、もう少しご一緒させてくださいよ」
「寝ぼけるな。
さっさと帰ってお前も仕事をしろ」
冷たくあしらわれたクリークは、苦笑いをしながら頭を掻く。
ーーこの後もジャンヌは夜も寝ずに、最終調整は日が明けるその時まで続けられていた。
クリークはいつしか自然と頭から離れるかのように、その姿を消していた。