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「ーークリーク。
お前を呼んだ覚えはないが」
「いえいえ、僕は隊長からの命令でジャンヌさんに伝令をしにここまで来た次第でして」
「アーサー隊長の?」
「僕たちセット・エトワールに新たな指令が下ったのですよ。
元老院の方々から、です」
少年の名はクリーク・ヴァン・モラルタ。
ジャンヌとは同じ星頂守護機関の人間にして、特務実行部隊セット・エトワールに二人は名を連ねている。
ジャンヌはその中でも副隊長という立場だ。
ジャンヌはクリークの用向きを聞くと、すぐに副官に命じて人払いをし、テントに二人だけの状態にした。
「ーーふん、お前が直々に、とはな」
「いや~最近は本国とこっちを行ったり来たりでして・・・全く隊長も人遣いが荒いですよ」
「ふ・・・それで?」
「あ、はい。早速ですが、指令の内容をお伝えします。
今回僕たちに下った指令は二つありましてーー」
ジャンヌの配下たちは彼女を前にすると、どこか緊張していた雰囲気だったが、クリークはおどけた様子で明るく話している。
ーーそしてクリークの口から二つの特務の内容が語られた。
ジャンヌは特に表情を変えることもなく、淡々とそれを聞き入れていた。
「ーーそれだけか?」
「え?あ、はい」
話終えても表情を変えないジャンヌ。
常に笑顔のクリークもこれは意外な反応だったか、一瞬笑顔が途切れた。
「一つ目は丁度いいタイミングだ。
夜明けと共にあの『黒い刃を持つ女』を討伐しにいく予定だ。
事が巧く運べばその時、『漆黒の銃剣』は手に入るだろう」
「お話しは伺ってますよ。
なんでもこの近くに潜伏しているそうですね」
一つ目の指令。
それはかつてカラミティ・ジェーンが使っていたとされる二つの武器の回収。
その一つを件の討伐対象が持っている事をジャンヌは知っていた。
この指令自体は以前からも出されていたこと故、ジャンヌの今回の討伐作戦は同時にそれを手にいれるためでもあった。
「僕もお手伝いしましょうか?」
「余計な世話を焼く必要はない。
私一人で充分だ」
「あっははは・・・さすがジャンヌさん。
確かにジャンヌさんが出るなら僕は必要ないですね」
助勢など無用の世話、と返されてもクリークは一々変わらぬ笑顔を見せている。
常に表情を引き締めているジャンヌとはまるで正反対である。