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そしてその『黒い刃』を持つ者を追った者の話によれば、この近くにある鉱山へ駆け込んだという。
そこを根城としているのかは分からないが、とにかく入り口を十数名の部下に見張らせ、
時期を見て一気に討伐してしまおうとジャンヌは考えた。
その時を翌日と定めて準備を進めていたのである。
「ーーしかし、気になるな」
「はっ・・・?」
「なぜ奴はあそこから出てこない?
あの鉱山の出入り口はあそこだけなのだろう?」
「は、はいっ。
我々の調査でそれは確かかとーー」
「気になることはまだある。
最初に我らの兵を襲撃した時も、なぜすぐに退いたのだ?
しかも己の隠れ家をあっさりと掴ませるとはーー」
「中将・・・」
「まるで私たちを、あの場所へおびき寄せているかのようだ・・・」
ジャンヌの懸念に副官であるグレッグスが受け答えをする。
「まさか・・・罠、だと?」
「その可能性はあるな。
我々をおびき寄せ、一網打尽にしようとたくらんでいるのかもしれん」
ジャンヌのその言葉に、集まる面々に動揺が広がる。
「ふっ・・・案ずるな。
私がいる。
機があれば奴を討ち取るーーそのために私はここにいるのだからな」
「し、しかし、奴はあのアークダイン中将とその部隊を相手取り、全滅させる程の力の持ち主!
やはり本国からもっと人を寄越すよう要請すべきでは」
「奴もいつまでも待ってはくれまい。
この機を逃せば、また痛ましい犠牲を出すことにもなりうる」
「で、ですがーー」
「ーー私が負けると思うか?」
その質問に動揺を抱いた副官が目を覚ましたように、気を落ち着かせていった。
そして一つ息を呑んだあとで、首を横に振る。
「ふふ・・・余計な不安を抱かせたようだな。
だが心配するな。
この『星を紡ぐ者』の力を受け継ぐ私が、
必ず無惨に殺された同胞の、そしてアークダイン殿の仇をとってみせよう!」
そう決意を口にしながら振り向いたジャンヌ。
槍と盾を携えた美しい銀髪の女神。
周りの人間たちはまるでジャンヌを崇めるようにその姿に見入っていた。
「ーーさすがジャンヌさん。
頼りがいがありますね~」
するとテントの中へ突然入ってきたのは、穏やかな笑顔を見せる少女のような少年。
彼を見たジャンヌ以外の人間が驚くと同時に、直ぐ様敬礼の姿勢で突然のその来訪者を迎えた。
「モラルタ少将!」
「あはは、いいですよ。
楽にしてくださいね~」
副官・グレッグスがその名を呼ぶと、少年は愛想よく笑い、手首を上下に振りながらそう促した。